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IBDの最新情報

山本 隆行

はじめに

皆さんもご存知のように、生活様式の欧米化により日本でも炎症性腸疾患(IBD)が急増しています。
IBDとは、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つの疾患を指します。

四日市羽津医療センターでは「IBDセンター」を開設してIBDの診療に力を注いでおり、みえIBD患者会や難病相談会を始め多くの啓蒙活動を行っ ています。現在当院では、潰瘍性大腸炎は500人、クローン病は300人の患者さんが加療されており、患者数は年々増加しています。また、最近県内外で治 療に難渋している症例や術後合併症を併発した患者さんが多く紹介されるようになりました。

当院におけるIBD患者数の推移


IBDチームの結成

IBD は治療法が多岐にわたり複雑な為、適切な治療を行うためにはいろいろな職種の協力や連携が必要になります。当院では、医師、看護師、薬剤師、栄養士、臨床 工学技師、臨床心理士、メディカル・サポート・グループ(MSG)が団結してIBDチームを結成しました。定期的にカンファレンスを開き、患者さんの病態 や治療について討論したり、勉強会を行い知識を高めたり、患者さん用の医療パンフレットを作成したり、患者さんの治療がスムーズに進むように各部署の連携 を強化したり、他にもいろいろな活動を行っています。また、みえIBD患者会の事務局が当院に置かれており、定期的に患者さんやご家族を対象に患者会(下 記)を開いています。難病相談会も定期的に行い、困っておられる患者さんやご家族と専門医が直接お話しする機会を設けています。

患者さんが安心して質の高い満足のゆく治療を受け、元気に社会復帰してくださることがチームの望みです。「この病院に来て治療を受けて良かった」と 言っていただけるのが最高の喜びです。これからも患者さんや家族に貢献できるようなチームにするために全員一丸となって精進してゆきます。私どものチーム の活動の一部をご紹介します。ご覧ください。

当院のIBDチーム

各チームごとの詳細をpdfファイルにて掲載しております。
看護部薬剤部臨床工学部栄養部臨床心理士MSG
 

平成24年3月17日に「みえIBD研修会」で開催されました各チームごとの講演内容をPDFファイルにて掲載しております。
Gキャップについて 家庭での感染対策 レミケードについて 薬と妊娠・授乳 炎症性腸疾患の食事
 

3月17に「CTYケーブルテレビ」にて放映された内容です



みえIBD患者会

臨床心理士患 者さんやご家族を当院にお招きし、IBDの正しい知識をつけていただくように、専任講師の講演や患者さんの体験談を聞いていただています。質問も御自由で す。料理教室を開くこともあります。同じIBDと闘っておられる患者さんやご家族とお知り合いにもなれる貴重な場です。

 

「みえIBD」患者会のご紹介(pdf)
IBD患者会の様子(pdf)

このホームページでは、IBDと診断された(あるいは疑われている)患者さんが、適切な知識をもって安 全で有効な治療を受ける手助けとなることをIBDチームが願って作成したものです。現在、当院で行っている治療法やその成績をご紹介しています。ご質問の ある方は、当院にご連絡ください。

なお、潰瘍性大腸炎やクローン病のもっと基本的なことを知りたい方は、以下のサイトなどをご参考ください。

難病情報センター「潰瘍性大腸炎」
http://www.nanbyou.or.jp/entry/62
難病情報センター「クローン病」
http://www.nanbyou.or.jp/entry/81
「IBD情報」
http://www.jimro.co.jp/ibd/index_ibd.htm
  • 当院では、レミケードの点滴注射や血球成分除去療法を受ける患者さんのために専用の治療室を設けました。仕事や学校の終了後に治療を受けられるようになりました。
  • 当院の4階病棟にみえIBD事務局を併設しています。IBDの情報誌・食事レシピ・患者会などの資料をご自由に閲覧できます。
  • 当院におけるIBDチームが、CCJAPANというIBDの総合情報誌(48巻50巻)やアステラス・スクエアという医療情報誌(4・5月号)で紹介されました。ご覧ください。
GCAP治療室 レミケード治療室

GCAP治療室

レミケード治療室

当院では現在、新薬や新しい治療法の臨床試験を多数行っています。海外の施設とも共同研究を行っています。これらの試験の結果は、今後のIBDの治療に役立つ貴重なデータとなります。当院で行われた多数の臨床試験の結果が国内外で報告されています。

これまでの治療が効かない患者さんや臨床試験に興味のある方は、遠慮なくご連絡ください。ご相談のうえ、適切な臨床試験があればご紹介いたします。

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当院でのIBD治療の基本方針

  • 早期に寛解に導き、寛解を長期間維持する。
  • ステロイドを漫然と投与しない。
  • 必要時には、外科的治療(手術)を速やかに行う。

IBDの治療原則

IBDでは寛解(症状が落ち着いている状態)期と活動(症状が見られる状態)期が交互に見られます。活動期の患者さんに適切な治療を行い出来る だけ早く寛解に導き、その寛解を長期間維持する必要があります。寛解期には再燃や再発(再び悪化すること)を防止する為に一般的に寛解維持療法を行いま す。IBDにも様々な病態があります。軽症の患者さんや寛解状態の患者さんに、副作用を伴う強い薬剤を投与する必要はありません。とくにステロイドは、必要な際に投与して速やかに減量し中止するべき薬剤です。慢性的にダラダラと長期間投与すると少量でも副作用に苦しむことになります。

IBDでは大出血や腹膜炎(激しい腹痛)を起こしている患者さんには、緊急手術が必要です。

また、内科的治療が有効でないときにも手術が必要なことがあります。手術はできれば避けたいですが、
  • ステロイドが長期間投与され副作用に苦しむ患者さん
  • 長期間腹部症状が続き、食事が摂れず体重が減少して常に全身倦怠感が強い患者さん
  • 頻回に入院加療が必要で社会生活が送れない患者さん
などは、手術を受けると薬剤から解放され食事も十分摂取でき良好な健康状態を取り戻すことができます。手術適応についてはIBD専門の外科医に 相談されることをお勧めします。手術は患者さんのQOL(生活の質)を向上させるものであって決して敗北ではありません。手術が無事終わってそこから新し い生活が始まるのです。

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内科的治療

IBDにおける各種治療薬の位置づけを示します。疾患の活動性や難治性が高くなれば、原則として下図の左側のように、下段から上段へ治療法が Step upしてゆくことになります。下段の方がベースになる治療薬で、効果は緩やかですが、安全性が高いと言えます。内科的治療が無効な場合は、最終的に手術が 必要になります。欧米では、最初に効果の確実な薬剤から開始して、上段から下段へうつるTop downが注目されています。日本でもTop downの考え方が少しずつ広がっています。Step upとTop downは一概にどちらの方が良いかは言えませんが、各々の患者さんの病態や社会的背景などを考慮して最も良い治療を選択してゆく(オーダーメード治療) 必要があります。それぞれの治療法で、重要なポイントを分かりやすく解説します。

IBDにおける治療法


5-ASA製剤

ペンタサ・サラゾピリン・アサコールなどの薬剤を指します。一般に内服しますが、経肛門的に投与する方法があります。これらの薬剤は、主に軽症 の患者さんや寛解状態に至った患者さんに使用されます。ただ、少量では効果が見られないこともあり、十分な量を投与する必要があります。最近、活動期の潰 瘍性大腸炎において、ペンタサを4g/日まで内服する(一般にペンタサ500mgを朝食後と夕食後に4錠ずつ)ことができるようになりました。当院でも従 来のペンタサ投与量(2.25g/日)で臨床症状が消失しない患者さんに4g/日まで増量すると症状が改善した患者さんが見られます。この有効性は、最近 当院も参加した全国規模の臨床試験で証明されています。当院では、ペンタサ2.25g/日で寛解維持中だった潰瘍性大腸炎の患者さんが下痢や下血で再燃し た際に、ステロイドを用いずにペンタサの容量を4g/日まで増量することでどれだけ臨床症状や内視鏡所見が改善するかを調査しました。増量8週間後には、 グラフに示すように66%の患者さんの臨床症状が改善し、44%で臨床症状が消失しました。

また、内視鏡所見でも48%の患者さんで改善し、28%で炎症所見がほぼ消失しました。ペンタサの増量による重篤な副作用は見られませんでし た。このようにステロイドを用いずにペンタサの増量により病態が改善する患者さんが多くみられることが分かりました。これらの所見はとくに軽症の患者さん で認められ、再燃した際の臨床症状が軽いときは、まずペンタサの容量を増やすことは安全で有効であると考えています。

ペンタサ増量の有効性

また、ペンタサを内服していても直腸やS状結腸など肛門に近い病変が良くならないことがあります。これは、ペンタサの腸管内での濃度が徐々に低 下し、肛門近くの大腸で十分効果を発揮していない可能性があります。これらの患者さんには注腸薬が有効です。炎症が強い時はうまく注入できないこともあり ますが、寛解状態になったときは投与できるようになります。ペンタサは、軽症例の寛解導入に有効です。また、寛解時に投与することで再燃率を下げる効果 (寛解維持効果)があることが報告されています。

最近はアサコールという新しい薬剤が使用できるようになりました。ペンタサが時間依存性放出で上部小腸からすでに5-ASAの放出が始まるのに 対して、アサコールはpH依存性の放出機構を有しておりpHが7以上になる回腸の終末部から5-ASAの放出が始まります(下図)。したがって、大部分の 5-ASAが大腸内で放出され、直腸にも十分な濃度の薬剤が到達するため、当院ではペンタサを内服していても直腸病変が改善しないような場合でしかも注腸 が施行できないときにアサコールの内服を開始しています。

5-ASAの放出機構

また、最近では潰瘍性大腸炎において、5-ASA製剤をきちんと服用している患者さんは、服用していない患者さんと比較して大腸癌の発生率が低いことが報告されています。5-ASA製剤は毎日きちんと服用する事をお勧めします。

経腸栄養療法

経腸栄養療法は一般にクローン病の患者さんで行われます。患者さんの栄養状態を改善するだけでなく、活動期の患者さんを寛解に導いたり、寛解を 維持させる効果があります。当院でも約70%のクローン病患者さんが栄養療法を行っています。成分栄養剤は、窒素源が抗原性を持たないアミノ酸のみで構成 され、脂肪の含有量が極めて少ないため、消化を必要とせず腸管の安静を保ちながら栄養補給を可能にします。

当院の経腸栄養療法は、細いチューブを患者さん自身が鼻から胃まで挿入し(経鼻経管法)、成分栄養剤をポンプを用いて注入する方法で夜間眠って いる間に行います。一般的にエレンタール4パック(1200 mL=1200 kcal)を注入します。経鼻経管法は、成分栄養剤を飲むことができない患者さんに有用で、夜間に栄養補給でき日中は食事をおいしく摂ることできるという 利点があります。

当院では、IBDチームのメンバーが全員、鼻からチューブを挿入して栄養剤を注入する体験をしました。

この方法を毎日続けるのは大変かもしれませんが、可能であれば是非続けてほしいと思います。また、成分栄養剤を経口摂取できる患者さんは飲んで おられます。最近は栄養剤のフレーバーもずいぶん改善されました。ただ、栄養剤を大量に飲むことは難しいので、栄養剤のみでは不足するカロリーを食事で摂 取する必要があります。
成分栄養剤 経鼻チューブ 注入ポンプ

成分栄養剤

経鼻チューブ

注入ポンプ

 

 

注入ポンプ

当院では、寛解期の患者さんは、在宅で夜間に栄養剤の注入を行い必要カロリーの約半分を摂取し、残りのカロリーを日中の低脂肪食で摂っています(ハーフED法)。食事内容については、管理栄養士が指導を行っています。

寛解期の経腸栄養療法

当院での経腸栄養療法の有効性を示します。薬剤で寛解に至った患者さんを対象にすると栄養療法を行った患者さんと行わなかった患者さんでは、1 年後の寛解維持率は行った患者さんの方が高率でした。術後に栄養療法を行った患者さんと行わなかった患者さんでは、やはり栄養療法を行った患者さんの方が 治療成績は良好でした。

寛解維持率

これらのデータを分析すると、当院での栄養療法を1年間行うとクローン病の患者さん2~3人に1人の割合で、再燃や再発を防止することができることになります。このような理由から、当院ではクローン病の患者さんにはできるだけ栄養療法を続けるように指導しています。

ステロイド

ステロイド(プレドニン)は、急性期の強い症状(発熱、腹痛、下痢、下血など)を改善するのに有用です。ペンタサや栄養療法だけで効果が見られ ない時に、ステロイドを数日間投与するとこれらの症状が著明に改善することがよくあります。しかし、ステロイドには様々な副作用があります。とくに長期に 使用すると骨粗鬆症になったり、骨頭壊死などの重篤な副作用が起こることがあります。子供に使用すると成長障害を来たすこともあります。また、術前に長期 間大量にステロイドを投与されていると術後に重篤な感染症が起こりやすくなります。




ステロイドの副作用
  • 満月様顔貌
  • 中心性肥満
  • 皮膚線条
  • 多毛
  • 湿疹
  • 難聴
  • 高血圧症
  • 糖尿病
  • 血栓症
  • 神経症
  • 精神障害
  • 白内障
  • 緑内障
  • 骨頭壊死
  • 骨粗鬆症
  • 成長障害(小児)
  • 感染症
  • 術後感染症合併症
寛解維持率重篤な副作用

ステロイドには症状改善作用はあっても腸管の病変を改善する効果はあまりありません。したがって、ステ ロイドで症状が良くなっても活動性の病変が残存しており、ステロイドを減量したり中止したりするとすぐに症状が再燃してしまうことがよくあります。結局、 ステロイドを中止することができず、服用していると調子が良いため少量であれ漫然と投与されることがあります。このような状態をステロイド依存症といいま す。このような状態になってしまうと、ステロイドから離脱することが難しくなってしまい、将来副作用に苦しむことにもなりかねません。このようなステロイ ド依存症になってしまった患者さんには、当院では次に述べる免疫調整薬の投与や顆粒球除去療法を行い、ステロイドからの離脱を試みており成果を上げていま す。


血球成分除去療法

IBDの病因の一つとされる活性化された白血球を体外循環で除去し、症状や腸管の病変を改善する日本から開発された治療法です。顆粒球除去療法 (GCAP)と白血球除去療法(LCAP)という方法があり、当院ではGCAPを行っています。GCAP治療の詳細は以下のサイトをご覧ください。

「顆粒球吸着療法」
http://www.jimro.co.jp/ibd/09gcap/gcap.htm
2000年から潰瘍性大腸炎に保険適応となり当院でも多くの患者さんがGCAPを受けています。GCAPの標準治療では、1回治療時間は60分 で、週に1回の頻度で5週間(合計5回)行います。当院では最近は治療時間を90分に延長して、症例によっては週に2回の頻度で合計10回行い、その効果 を最大限引き出そうとしています。

当院のGCAP患者数の推移

当院で経験したGCAPの副作用は、頭痛や発熱など一過性で軽いものが多く、重篤なものはありませんでした。GCAPは安全な治療法です。有効 性では中等症の患者さんには効果的(寛解導入率70%)でしたが、重症例への有効性は高くありませんでした(寛解導入率11%)。当院でGCAPを行った 全症例でみると45%の患者さんが治療後に臨床的に寛解に至りました。内視鏡の観察でも、高度な炎症所見がGCAP後に改善することを経験しています。ス テロイド依存症だった患者さんが、GCAPを行うことで腸管病変が改善し、ステロイドから離脱できるケースも経験しています。

最近、当院ではGCAP治療によりどれぐらいの患者さんで粘膜の炎症所見が改善するか、また粘膜の炎症が改善した患者さんとそうでない患者さんでその後の臨床経過がどのように異なるのかを調査しました。その結果、GCAP治療により粘膜の炎症がほぼ正常の状態にもどった(粘膜治癒と 呼びます)患者さんはGCAP治療を受けた27%に見られました。臨床症状が寛解に至った患者さんの中で、内視鏡で粘膜治癒を起こしていた患者さんといな かった患者さんで、その後の寛解維持率を比較すると、下図に見られるように明らかに粘膜治癒を起こしている患者さんで寛解維持率は高率で、逆に粘膜治癒が 起こっていない患者さんでは早期に再燃が見られました。これらの所見から、当院ではGCAP終了時に臨床症状が改善しても内視鏡検査を行い、粘膜治癒が起 こっていない患者さんには繰り返してGCAPを行ったり、免疫調整薬の投与を考慮して、再燃を防止するようにしています。

当院のGCAP患者数の推移

GCAPの副作用

GCAPの寛解導入率


GCAPの早期導入

当院の研究結果から、GCAPはこれまでにステロイドを投与されたことが無い患者さんでは非常に有効ですが、逆に大量にステロイドを投与されて いる患者さんには効きにくいことが分かりました。したがって、当院では最近GCAPをステロイドの投与を開始する前の早い段階からも積極的に用いるように しています。GCAPでステロイドの投与開始時期を遅らせたり、投与量を減少させることができれば、メリットは大きいと考えています。2009年からはク ローン病にもGCAPが適応となりましたが、まだどのような患者さんに使えばもっとも効果的かははっきりしないところもありますので患者さんを選んで使用 したいと考えています。

ステロイド総投与量とGCAP有効率

私どもは初回発症の中等症の潰瘍性大腸炎に対してもGCAPを導入しています。可能な限りGCAPを行い、それだけでは不十分な際にステロイド を使用するようにして治療するGCAP治療群とGCAPを行わないでステロイドだけで治療するステロイド治療群では、発症後5年間経過観察すると、再燃の 回数は両治療群間で差を認めませんでしたが、ステロイドの総必要量は明らかにGCAP治療群で少なく、また、ステロイド依存症になる患者さんの割合も GCAP治療群で低い事が分かりました。すなわち、GCAPを発症早期から導入することで、ステロイドの使用量を減らすことができ、その結果、依存症にな る患者さんの率も減らす事が出来ました。

ステロイド必要量と変化

ステロイド依存症の発生


GCAP連続5日法

最近、当院ではできるだけ早く潰瘍性大腸炎の腹部症状を改善させるためにGCAPを5日間連続して行う方法(連続5日法)を行っています。これ までの結果から、GCAPを連続して行っても白血球・赤血球・血小板は減少しませんし、重篤な副作用も認めません。臨床症状では、排便回数や下血の程度は 図に示す様に多く(70%)の患者さんで改善します。現在では、当院の潰瘍性大腸炎の患者さんの多くが連続5日法のGCAPを受けておられます。

当院のGCAP連続5日法が、CCJAPAN66号(P24-25)に掲載されました。

GCAP連続5日法施行時の腹部症状の変化


免疫調整薬

欧米では免疫調整薬はかなり前からIBDの治療に使われており、その安全性と有効性は高く評価されています。日本では2006年からようやくイ ムランという免疫調整薬がIBDに対して保険認可されました。イムランは、従来の薬剤(5-ASA製剤やステロイド)で治療が困難な患者さんや先述したス テロイド依存症になっている患者さんに対して主に投与されます。当院でも治療困難例に対してイムランの投与を行っていますが、寛解導入できて長期間寛解を 維持できている患者さんが多くみられます。イムランには、ステロイドには見られない腸管の病変(とくに潰瘍)を治す効果があります。内視鏡による観察で、 深い潰瘍がイムランを数ヶ月間投与していると驚くほどきれいに治っていることをよく経験します。ステロイド依存症だった患者さんが、イムランの投与でステ ロイドから離脱できるケースも経験しています。

34歳女性 大腸炎

しかし、イムランには副作用が見られます。消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振など)は比較的高頻度で見 られ、肝機能障害、白血球数減少、関節痛、脱毛などが見られることもあります。投与開始3ヶ月間ぐらいは、とくに症状に留意し採血を頻回に行う必要があり ます。これらの副作用が見られた際には、減量または中止する必要があります。効果は投与して2~3ヶ月ぐらいして緩徐に現れることが多く、3~4年間内服 を継続することが望ましいと言われています。催奇形性の心配もありますが、妊娠する3ケ月ぐらい前に投与を中止すれば安全であるとされています。

2009年からは、タクロリムス(プログラフ)という免疫調整薬も保険認可され潰瘍性大腸炎の患者さんに対して投与することが可能となりまし た。プログラフは血中濃度を測定しながら使う内服薬で、ステロイド依存性やステロイド抵抗性になっている患者さんに投与されます。当院でも難治性の潰瘍性 大腸炎の患者さんに使用していますが、非常に有効で多くの患者さんで臨床症状が改善します。しかし、現在では3ヶ月間の使用しか保険診療上認められていな いため、投薬中止後に悪化してしまう患者さんが少なからず見られます。寛解をできるだけ長く維持するために、長期間の投与が承認される事が望まれます。

生物学的製剤

レミケードは、TNF-α(腫瘍壊死因子)というサイトカインを阻害して治療効果をもたらす生物学的製剤ですが、クローン病の治療の歴史を変え るほどの有効性をもたらしました。日本では、2002年から活動期のクローン病に適応となりましたが、2007年11月からは寛解導入後にも維持投与がで きるようになりました。レミケードは、原則として、初回投与、2週間後、6週間後に投与し、その後は8週間毎に投与(5 mg/kg体重を点滴にて)します。レミケードは、従来の治療法(5-ASA製剤、栄養療法、ステロイド)が無効であったクローン病の患者さんに投与され ます。非常に高い有効性が報告されており、当院でもこれまでの治療で寛解に至らなかった患者さんの約70%がレミケードで寛解導入できました。その後も8 週間毎の維持投与で高い寛解率を維持しています。当院の経験ではレミケードはとくに大腸型に有効で、深い潰瘍がみられ腹部症状が高度な患者さんでは投与数 日後には著明な効果が現れます。粘膜の潰瘍が驚くような速度で治癒することが確認されています。副作用についてですが、私どもの経験ではレミケード投与中 に重篤なものは経験しておりませんが、専門医のコントロールのもとに慎重な投与が必要であると考えています。

18歳男性 大腸クローン病

当院では術後に症状が見られなくても内視鏡で病変がある患者さんを対象にレミケードの投与を行い、内視 鏡の病変が改善し臨床的な再発を予防できることを最近報告しました。それらのデータをもとに術後再発防止を目的にした薬剤療法を行っています。すなわち、 術後6ヶ月の時点で内視鏡検査を行い、高度な内視鏡所見がある患者さんにはレミケード投与を開始し、そうでない患者さんにはこれまでの治療を継続していま す。

しかし、レミケードも万能ではなく、最初から効かない患者さんもおられますし、初めは効果があっても何度か投与していくうちに効果が減弱してい く患者さんも見られます。効果が減弱する患者さんでは、投与間隔を短かくしたり、1回の投与量を増やしたりして対応しています。現在、これらの患者さんに 栄養療法を行ったり、GCAPを加えたりすることで、レミケードの効果を維持することができるのかを調査中です。また、免疫調整薬を併用してレミケードの 投与を行っている患者さんでリンパの悪性腫瘍が発生したとの報告も欧米からされており、長期の安全性に関してもまだ完全に確立されたとは言えません。

最近、日本でも完全ヒト型の生物学的製剤であるヒュミラが使用可能となり、その有効性に大きな期待がもたれています。当院でもこれまでの薬剤で 効果が見られなかった患者さんや副作用が重篤であった患者さんを対象に投与を開始しています。ヒュミラは、初回は4本、2週間後に2本、その後は2週間毎 に1本を皮下注射します。医師の許可があれば、病院で注射指導を受けたあと、患者さん本人が注射する「自己注射」も可能です。皮下注射でしかも自己注射が 可能ですので、薬剤投与による拘束時間をかなり短縮することができ、忙しい患者さんには最適です。

これまでの報告では、中等度から重症の活動期のクローン病患者さんに対して、ヒュミラを2回投与したところ、4週後には約70%の患者さんに症 状改善効果が見られ、30%以上の患者さんで症状が消失しました。また、ヒュミラ 40mgを2週毎に継続投与したところ、1年後に40%以上の患者さんで症状改善効果が維持されました。さらに手術の必要率や入院のリスクを下げることが 可能になりました。当院では、レミケードの効果が減弱した患者さんやレミケードに副作用を認める患者さんを中心にヒュミラの投与を行っています。また、レ ミケードの投与を行ったことのない患者さんにも最初の生物学的製剤としてヒュミラを用いることもあります。今後、いろいろなデータを集積して、これらの生 物学的製剤をどのように使い分ければよいか検討してゆきたいと考えています。

IBDと癌のリスク

IBDの患者さんには発癌の危険性があり、注意が必要です。潰瘍性大腸炎では、診断後10年を経過すると発癌の危険性が徐々に増加し、 20~30年経つとかなり高率になります。したがって、発症後長期間経過した患者さんは症状がなくても年に一度は大腸内視鏡検査を受けることをお勧めしま す。クローン病でも長期経過例で、小腸や大腸に癌が見られることが最近報告されています。痔瘻に合併する肛門癌は発見が難しく、専門医による診断が必要に なります。診断後長期間経過したIBDの患者さんは、癌も念頭においた診察や検査を受ける必要があります。5-ASA製剤の項で述べたように、5-ASA 製剤には潰瘍性大腸炎における癌化のリスクを下げる作用があることが示唆されています。

潰瘍性大腸炎における発癌のリスク

(Gut 2001年 Eadenらの図を改変)

また、内視鏡検査の必要性は、癌を見つけるためだけでありません。治療において最も重要な検査です。患者さんの臨床症状と内視鏡の病変の程度が 一致しないことがよくあります。たとえば、臨床症状が無くても高度な病変がある場合もあり、これらの患者さんでは症状が無いからといって治療を緩めてしま うとすぐに再燃することにもなりかねません。また、内視鏡の病変が治っている患者さんには漫然とステロイドを投与する必要はありません。このように内視鏡 検査は、治療方針を決めていく上で有用な情報を提供してくれます。

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外科的治療

手術適応のIBDの患者さんは、一般に栄養状態が悪くステロイドが投与されており、免疫力が低下しています。そのため手術時期が遅れると、腹腔 内膿瘍などの重篤な術後合併症を起こす危険性が高くなります。高度の腹腔内膿瘍を併発した患者さんでは、再手術が必要になったり、永久に人工肛門になって しまうことがあります。したがって、ステロイドや免疫調整薬などの投与を長期間行い 漫然と手術時期が遅れてしまうことは避けなければなりません。そのため、内科医から外科医へのコンサルトのタイミングが非常に重要となります。しかし、施 設によってはIBD専門外科医がいないため、手術のタイミングを決定するのが難しい状況にあります。当院では、外科医が中心となってIBDの治療を行って いるためそのようなことはありません。他院の内科医から手術に関するコンサルトがあり手術が必要と判断した際には、できるだけ早急に患者さんに転院してい ただき手術を行っています。

潰瘍性大腸炎の手術

潰瘍性大腸炎の患者さんの手術適応を示します。

絶対的適応
大量出血・穿孔・腹膜炎・中毒性巨大結腸症
癌や前癌病変
相対的適応
難治性
薬剤の副作用
必ず手術が必要な絶対的適応と患者さんのためには行った方が良いと考えられる相対的適応があります。大量出血・穿孔・腹膜炎・中毒性巨大結腸症 (大腸の動きが止まり腸管が拡張して、大腸内に毒素やガスがたまってしまう状態などを認める際は、生命維持の為に緊急手術を行う必要があります。また、癌 や高度の前癌病変が発見された患者さんも速やかに手術を行う必要があります。手術適応で最も多いのが相対的な適応の難治性病態で、薬剤療法の効果が不十分 で、頻回にまた長期間入院加療が必要で、社会生活が満足のゆくように送れないような場合です。この適応はそれぞれの患者さんのおかれた生活状況に大きく左 右されますので、絶対的なものではありません。私自身は潰瘍性大腸炎の手術は後述する腹腔鏡技術の導入も加わり大きく進歩したため、長期間の薬剤療法で重 篤な副作用で苦しんだり、慢性炎症で発癌のリスクの高い患者さんは手術も重要な治療の選択肢であると考えています。

潰瘍性大腸炎の手術は一般的に分割手術を行います。

2期分割手術
  1. 大腸全摘+回腸嚢肛門(管)吻合+回腸人工肛門
  2. 回腸人工肛門閉鎖 (1の3ヶ月後)
3期分割手術
  1. 結腸全摘+回腸人工肛門
  2. 残存直腸切除+回腸嚢肛門(管)吻合+回腸人工肛門(1の約半年後)
  3. 回腸人工肛門閉鎖 (2の3ヶ月後)
先述したような重篤な状態で緊急手術になるような場合は手術を3回に分けて行います(3期分割手術)。また、比較的状態の良い患者さんでは2回 に手術を分けて行います(2期分割手術)。分割手術を行う理由は、潰瘍性大腸炎の患者さんでは、ステロイドや免疫調整薬を使用して免疫状態が不良なことや 栄養状態が悪いことが多いため、1回で手術を終わってしまうと術後合併症が起こった際に重篤になるリスクが高いからです。このような重篤な合併症が永久人 工肛門の原因になることもあります。

潰瘍性大腸炎の標準術式では、大腸をすべて切除します(大腸全摘)。その後に便の貯留機能を持たせる目的で、回腸終末部を用いて回腸嚢(Jパウチ)を作成して先端を肛門あるいは肛門管と吻合します。

回腸嚢(Jパウチ)作成

回腸嚢肛門(管)吻合

吻合法には上図に示すように、回腸肛門吻合(IAA)と回腸肛門管吻合(IACA)の2つの主要な方法があります。IAAは肛門から術者が手縫 いで吻合します。IACAは自動吻合器を用いて吻合します。どちらの方法も長所と短所があります。IACAは少し直腸の粘膜が残りますが、残存粘膜からの 大量出血や癌のリスクは非常に少なく、またIAAと比べて術後の漏便(後述します)が少なく排便機能が良好です。 当院ではこれまでIAAを行っていましたが、最近はほぼ全症例にIACAを導入しています。下部直腸癌が見られる患者さんでは残存直腸粘膜を残さないよう にIAAを行っています。

縫合不全と骨盤膿瘍

一時的回腸人工肛門

回腸嚢と肛門(管)の吻合部が縫合不全を起こしてしまうと骨盤膿瘍が遷延して肛門機能が極めて悪くなり(上図)、永久人工肛門を余儀なくされる ことがあるため、一般に回腸嚢と肛門(管)を吻合した際には、その吻合部を保護する(便を通さないようにする)目的で、回腸に人工肛門を造設します。吻合 部に問題がないようなら約3ヶ月後に人工肛門を閉鎖します(上図)。したがって、患者さんはしばらく人工肛門で日常生活を送る必要があります。しかし、そ れほど長い期間ではありませんし、人工肛門の創は小さくきれいに治りますので、それほど苦痛なものではありません。一時的な人工肛門は患者さんに危険を回 避して良好な術後成績を提供するための手技であることをご理解ください。一方、65~70歳を超える高齢の患者さんでは、肛門を締める筋肉の機能が落ちて いることがあり、人工肛門のまま過ごしていただいた方が良好な生活を送っていただける場合もあります。

腹腔鏡手術のメリット

潰瘍性大腸炎では、大腸を全切除して回腸終末部でJ型回腸嚢を作成し肛門管と吻合する大きな手術が行われます。手術に際しては、高度な技量と十 分な経験が必要になります。当院でのIBDの手術例数は年々増加しており、患者さんからより満足度の高い手術が要求されるようになりつつあります。そのよ うな背景から2005年8月より用手補助下腹腔鏡手術(Hand Assisted Laparoscopic Surgery: HALS)という手術方法を導入しています。2007年からは緊急症例にもHALSを適応しており、現在では潰瘍性大腸炎のほとんどの手術でHALSを 行っています。また、クローン病ではHALS(おもに大腸病変)に加え、さらに傷の小さな腹腔鏡手術(おもに小腸病変)も行っています。

用手補助下腹腔鏡手術(HALS)

当院におけるHALS経験数の推移

HALSの1番のメリットは、整容性(傷跡の綺麗さ)が優れていることです。当院のHALSでは、潰瘍性大腸炎では下腹部に7cmの横切開を置き、術者が手を挿入します。(この傷跡は下着で隠れます)。 臍部から腹腔鏡を挿入し腹腔内を観察しながら、左側腹部に1cmの小切開を置いて手術器具を挿入して手術を進めます。従来の開腹手術創とHALSの手術創を比較すると大きな違いがあります。実際の患者さんの傷跡をお示しします。

手術創の比較

当院では、HALSはこれまで全例に対して安全に行うことができ術中に大きな偶発症を経験していません。手術時間は開腹手術と比較して長いですが、術中出血量では大きな差を認めませんでした。術後の痛みは、手術翌朝も初回歩行時もHALSは開腹手術と比較して軽度でした。

HALSと開腹手術との比較

術後疼痛:HALSと開腹手術との比較

当院で最近HALSを行った潰瘍性大腸炎64症例では、14例に術後合併症が見られました。最も多かったのは腸閉塞で、5例に見られそのうち1 例が腸閉塞を解除する再手術を要しました。他の4例は保存的に軽快しています。次に多かった合併症は、腹腔内膿瘍4例でそのうち1例が再手術を要しましが 3例は人工肛門が造設してあったため保存的に軽快しました。術後合併症率は、開腹手術例と比較しても有意な差を認めず、HALSは従来の手術と変わらず安 全に行えることが分かります。

HALS術後合併症

クローン病に対しても大腸切除の際にはHALSを行っていますが、小腸病変にはさらに傷が小さい(4~5cm程度)腹腔鏡手術を導入していま す。クローン病の外科治療において、小腸に多数の病変が存在する際の手術は最も難しいとされています。最近、当院でも小腸に多数の狭窄がある患者さんの手 術を何度か行いました。1例をご紹介します。20歳の男性で腸閉塞を来たし手術となりましたが、小腸全域に多数の狭窄病変を認め、もし切除すると小腸がほ とんど残存しないような状態でした(手術写真)。

そこで、狭窄形成術という狭窄部を切除せずに拡張する手術を行いました。腹腔鏡手術で行ったので小さな傷で行うことができ、腸管を全く切除せずに手術が行えました(手術写真)。 術後に腸閉塞は消失し、患者さんは現在も寛解状態を維持しています。このように小腸病変に対しては、狭窄形成術を用いることで腸管を切除することなく治療 することができます。小腸を大量に切除して短腸症候群になってしまうと、生涯経静脈栄養を行わなくてはいけなくなってしまいます。

狭窄形成術

当院で最近経験したクローン病に対する腹腔鏡手術32症例では、3例に腸閉塞、2例に腹腔内膿瘍の術後合併症が見られました。開腹手術例とこれ らの合併症率を比較しましたが、有意な差を認めませんでした(下図)。したがって、腹腔鏡を用いた手術は従来の開腹手術と同じように安全であることが分か ります。当院では、クローン病に対しても、前回手術の影響で腹腔内に高度な癒着を認める患者さんや腹腔内に高度な膿瘍や腫瘤を形成しているような患者さん を除いては、可能な限り腹腔鏡を用いた手術を行っています。

クローン術後合併症


単孔式腹腔鏡手術

最近、当院では小腸クローン病の狭窄病変に対して、1ヶ所の創のみで行う腹腔鏡手術(単孔式腹腔鏡手術)を導入しています。臍部に小さな (3cm程度)切開創をおくのみですので、術後はほとんど創は分からなくなります。整容性に極めて優れており、とくに若年女性の方にはメリットの大きな術 式です。当院で行った単孔式腹腔鏡手術後の傷跡をお示しします(写真)

まとめとして、腹腔鏡手術の利点を示します。
  • 術後の傷跡が小さい
  • 術後の痛みが軽い
  • 術後の回復が早い
このように、痛みが少なく整容性に優れた手術を行うことで、患者さんの術後の満足度も高く、今後手術に対する抵抗も少なくなればと期待しています。

大腸全摘術後の排便機能

潰瘍性大腸炎で大腸全摘術を行った患者さんでは、水分を吸収し便を固形にしていた大腸がなくなるので、常に水様便~泥状便になり、排便回数が術 前の寛解期よりむしろ多くなります。しかし、 排便回数は時間の経過とともに少しずつ減少して1年後ぐらいには個人差はありますが、だいたい一日5~10回ぐらいに落ち着きます。また、大腸全摘術後 は、夜間に熟睡しているときに漏便といって便を漏らしてしまうことがあります。その頻度(漏便を認める患者さんの割合)もグラフに示すように時間の経過と ともに少なくなります。肛門の筋肉がしっかりした若年の患者さんでは、全く漏便を経験したことがない方もおられます。大腸全摘術後は、術前より排便回数が 増えてしまったり、漏便を経験したりして、排便に悩まされることもありますが、当院のアンケート調査によるとほぼ全員の患者さんが病気や薬剤(ステロイド や免疫調整薬)から解放され手術をして良かったと感じておられます。

大腸全摘後漏便の頻度


クローン病術後再発予防策

クローン病術後の大きな問題点は再発率が高いことです(下図)。しかし、術後早期に再発を起こし再手術が繰り返し必要になる患者さんがいる一方 で、長期間再発なしで過ごしておられる患者さんもいます。当院では、これまでどのような患者さんに術後再発が多いのか、いわゆる再発危険因子を求めて研究 してきました。その結果、再発のリスクが高いのは次のような患者さんであることが分かりました。
  • 喫煙者
  • 病変部が穿孔・瘻孔・膿瘍を呈している(穿孔型病変)の患者さん
喫煙者は非喫煙者と比較すると約2~3倍再手術のリスクが増加します。しかし、禁煙すると術後再発率が下がることが報告されているため、当院で はクローン病の患者さんには禁煙するように指導しています。このホームページをご覧のクローン病の患者さんでタバコを吸っておられる方は是非禁煙してくだ さい。また、クローン病の手術適応は、穿孔型病変(穿孔・瘻孔・膿瘍)と非穿孔型病変(主に狭窄)に分かれますが、穿孔型病変の方が非穿孔型病変よりも約 1.5倍再手術のリスクが高いことが分かっています。

クローン病の術後再発率

また、クローン病の術後1年時に、臨床症状の再発を認める患者さんは約20%であるのに対して、内視鏡検査を行うと腸管吻合部付近に70%の患 者さんで高度な病変が見られると報告されています(下図)。すなわち、クローン病の術後は症状が見られないにもかかわらず、多くの患者さんで内視鏡的には すでに病変が進行していることが分かります。当院の調査では術後6ヶ月時に高度な内視鏡病変を認める患者さんはその後に再発しやすく、逆に内視鏡的に病変 を認めない患者さんは再発を来たしにくいことが分かりました。このような結果から、当院では今後の治療方針を立てるために術後6ヶ月時に内視鏡検査を行い 吻合部付近の病変の有無をチェックしています。

クローン病術後の薬剤治療についてですが、これまでの研究から、5-ASA製剤(ペンタサ・アサコール)や抗菌剤(メトロニダゾール)に再発予 防効果があることが報告されています。しかし、5-ASA製剤の効果は弱いためメリットが少なく、また、抗菌剤は副作用が強く長期間内服を続けることは困 難です。当院の調査の結果、成分栄養剤を用いた経腸栄養療法に再発率を下げる効果があることが示唆されましたが、今後さらなる検証が必要です。最近、欧米 の臨床試験で免疫調整薬やレミケードに再発防止効果があることが証明されましたが、まだこれらも十分なデータとは言えません。レミケードは高価で、重篤な 副作用の可能性を有する薬剤であることから、医療経済的にあるいは安全性の面から、すべての術後の患者さんに投与することには賛成できません。当院では、 内科的治療の生物学的製剤の項で述べたように、術後6ヶ月時に認められた高度の内視鏡病変に対してレミケードが有効で、その後の臨床的な再発を予防する効 果があることを報告しました。したがって、術後早期に内視鏡病変を認めた患者さんを対象にレミケード治療を開始するようにしています。

クローン病の術後再発率

当院での回結腸切除術後の再発予防対策の概要を下図に示します。喫煙者や穿孔型病変を有する患者さんでは、術後早期より免疫調整薬の投与を開始 し、一方、これらの因子を有さない患者さんでは5-ASA製剤の投与や経腸栄養療法を行っています。術後6ヶ月時に内視鏡検査を行い高度の病変を認める患 者さんにはレミケード治療を開始し、無病変や軽度な病変の患者さんではこれまでの治療を継続し、さらに6ヶ月後に内視鏡検査を行いレミケードの必要性を検 討しています。ただし、これまでの記述は回腸終末部や回盲部に限局した病変が切除し得た患者さんを対象としており、手術終了時に上部小腸や大腸に活動性病 変が残存している場合は、術後早期からのレミケード療法を行っています。

クローン病術後の薬剤療法

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妊娠や出産について

とくに女性のIBDの患者さんは、妊娠や出産について大きな不安を持っておられると思います。しかし、それほど心配はいりません。適切な知識を 持っておられれば、安全に妊娠や出産をすることができます。IBDの患者さんは、妊娠する率が一般女性より低いという報告もありますが、それほど変わらな いという報告も多く見られます。IBDの患者さんでは妊娠や出産に対して不安が強すぎて自分から妊娠を諦めておられる方もみえるようで、そのことが妊娠率 が低い原因になっている可能性もあります。ただ、潰瘍性大腸炎の手術後には卵巣や卵管の癒着などのため、妊娠率が低下するという報告はあります。しかし、 当院でも術後に無事出産されている方もたくさんおられますので心配はいりません。クローン病の患者さんでは、高度の肛門病変や膣瘻(腸管と膣の交通)のあ る患者さんでは、経膣分娩は避けて帝王切開が行われます。

IBDでは、寛解期に妊娠した患者さんでは、活動期に妊娠した患者さんより、出産までの経過が良好で正常に出産できる確率が高いとされます。す なわち、病気の調子が良い時期に妊娠した方が、より安全に出産できるということです。活動期に妊娠してしまうと病態が悪化して、さらに強い薬剤を使わない といけなくなったり、妊娠中に手術が必要になってしまうこともあります。 妊娠中の薬剤についてですが、妊娠したからといってすぐに医師から処方されている薬剤を自己判断で止めてしまうことは避けた方が良く、医師に必ず相談して ください。妊娠2週から12週までは器官形成期と呼ばれ、薬剤による催奇形作用を受けやすい時期です。それを過ぎると薬剤による催奇形作用の可能性は低く なります。妊娠中の薬剤の安全性については、アメリカ食品薬品管理局(FDA)から出されたガイドラインが参考になります。要約すると

カテゴリーB (危険はなく安全と考えられる)
  • 5-ASA製剤(サラゾピリン・ペンタサ)
  • インフリキシマブ(レミケード)
カテゴリーC (危険とも安全ともいえないが、注意しながら投与)
  • ステロイド(プレドニン)
  • シクロスポリン(サンディミュン・ネオーラル)
カテゴリーD (基本的には投与禁止)
  • アザチオプリン(イムラン)
  • 6-MP(ロイケリン)
日本ではより安全性が重視される傾向があり、アザチオプリンや6-MPなどの免疫調整薬はやむを得ない状況を除いて、妊娠前(3ヶ月ぐらい前) に中止したほうがよいとされています。同様にインフリキシマブ(レミケード)もFDAの基準ではカテゴリーBですが、日本では妊娠中の安全性に疑問視する 意見があります。しかし、実際にはレミケード維持投与中に無事に出産された患者さんも少なからず見られます。

授乳についてですが、5-ASA製剤(サラゾピリン・ペンタサ)やステロイドは比較的安全とされ、一方、シクロスポリンは禁止されています。ア ザチオプリンや6-MPなどの免疫調整薬やインフリキシマブはできれば避けるべきとされますが、はっきりとした安全性や危険性については分かっていませ ん。

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最後に

当院のIBD治療における業績や成果の一覧をお示しします。興味のある方はご覧ください。
詳しい内容をお知りになりたい方はご連絡ください。

近年、IBDの治療の進歩は目覚しく、生物学的製剤(レミケードやヒュミラ)などの新薬は治療の歴史を変えるほどの効果をもたらしました。ま た、日本で開発された血球成分除去療法もその有効性が認められ広く行われるようになりました。また、海外ではすでに使用されていた免疫調整薬も本邦でも保 険認可され、投与することができるようになりました。当院でもこれらの新薬や新しい治療法を導入することで、優れた治療成績をあげることが可能になりまし た。しかし、生物学的製剤や免疫調整薬には重篤な副作用の可能性があり、長期の使用に関しては安全性に不安があります。また、これらの薬剤は患者さんの免 疫力を落とすために感染症にかかりやすく、感染症が重篤になってしまうことも稀ではありません。

したがって、最新の内科的治療を駆使しても治療困難な場合には、適切な時期に手術を行う必要があります。IBDの手術は、腹腔鏡技術の導入によ り大きく変わりつつあります。当院でも大腸切除に用手補助下腹腔鏡手術(HALS)、また、小腸クローン病に単孔式腹腔鏡手術を導入し、従来の開腹手術と 比較すると大きな飛躍を遂げました。腹腔鏡手術の大きな利点は、術後の傷跡が小さく目立たないことや痛みが少ないことです。傷跡が目立たないことは、若年 者の多いIBD患者にとっては大きなメリットです。このような満足度の高い手術を行うことで、今後IBD患者の手術に対する抵抗が少なくなり、早期に社会 復帰が可能となると信じています。

先述したように、IBDの治療は、新薬や新しい手術方法が生まれ格段に進歩しました。しかし、難治性のIBDに苦しむ患者さんは増加しているよ うに感じます。これらの新しい治療をどのような患者さんにどのように活かしてゆくかは今後の大きな課題です。私どもIBDチームは、これからも患者さんが 安心して満足のゆく質の高い治療を受けられるように努力したいと思っています。是非、私たちIBDチームと一緒に難治性のIBDと闘いましょう。

当院IBDセンターを受診されたい方は下記(代表)にお電話頂き、外科外来のスタッフに受診希望とお伝えください。ご予約を承ります。


四日市羽津医療センター
TEL:059-331-2000(代表)

 

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