胃がんと腹腔鏡手術について

胃がんとは

胃がんは、胃の壁のもっとも内側の粘膜(食べ物と接する場所)から発生します。食生活の欧米化により胃がんはやや減少傾向ですが、2010 年度の日本における死者数は50,136人(男32,943人、女17,193人)で、男性では肺がんに次いで第2位、女性では肺がん大腸がんに次いで第 3位です(厚生労働省人口動態統計より)。胃がんは、早期胃がんと進行胃がんに分けられます。早期胃がんとは、がんが胃粘膜あるいは粘膜のすぐ下の粘膜下 層までに留まっているもので、ほとんど転移をおこすことが無く、治療により多くの方が治ります。一方、胃壁の筋層を超えて広がった進行胃がんでは、転移の 頻度が増加し、進行度が進むと生命予後が悪くなってきます。

胃がんの症状

ほとんどの場合、早期がんの段階では無症状で、進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てきません。胃がんが進行してくると、腹痛・胃部不快感・吐気・嘔吐・胸焼け・食事後の胃部膨満感・食欲減退・貧血・体重減少・黒色便などの症状が出てきます。

胃がんの検査・診断

上部消化管内視鏡(胃カメラ)で進行胃がんはもとより、早期胃がんも診断できます。胃カメラで癌を疑った場合は、生検・病理検査(胃カメラで病変を見ながら組織の一部を摘み取り、顕微鏡で組織診断を行う)で確定診断を行います。

胃がんの治療

胃がんの治療法には、内視鏡治療・手術治療・抗がん剤治療・免疫治療があります。他のがんと同様に、進行度によって治療法は異なります。早 期胃がんに対しては、積極的に侵襲の少ない縮小治療を行っています。胃カメラで粘膜切除を行う方法や、おなかの中にカメラと細い道具を入れて胃切除を行う 腹腔鏡下胃切除術を取り入れています。進行胃がんに対しては、手術で切除可能な場合は、開腹手術で病巣部を取り除き、進行度に応じて、術後(場合によって は術前)に抗がん剤治療を行います。手術で切除不可能な超進行がんには、抗がん剤治療や免疫治療を行います。

胃がんの手術(図1)

胃を切除する方法には、胃部分切除・幽門側胃切除・噴門側胃切除・胃全摘術などがあります。がんが存在する場所や進行度によって、切除方法 が決まります。進行度に応じて胃の周囲のリンパ節を一緒に取り除きます。胃の周辺臓器を合併切除することもあります。胃を切除した後は。残った胃(胃全摘 の場合は食道)と腸をつなぎ、食事が通るようにします。

腹腔鏡下胃切除術(図2)

腹腔鏡とは、1cmほどの小さなキズからおなかの中に入れることができる細長いカメラのことです。腹腔鏡下胃切除術は、おなかに、0.5~1cmほどの小さな穴を5ヶ所開けて(図3) 、カメラと電気メスや鉗子などの道具を入れて胃を切除し、残った胃と小腸をつなぎます(写真1) 。細かい作業を連続して行うため、手術時間がかかりますが、出血量は少なくて済みます。手術のキズが小さい(写真2) ので痛みも少なく、術後の回復が早いことが患者さんにとっての利点です。ただし、術中出血などにより腹腔鏡手術の遂行が困難な場合は、従来の開腹手術に移 行します。腹腔鏡下胃切除術は、わが国で報告されて20年ほど経過し、開腹手術とほぼ同等もしくはそれ以上の細かい手技を行うことも可能で、手術成績も開 腹手術と変わらないとの意見が多くあります。すでに健康保険でも認められていますし、癌治療に対する考え方は腹腔鏡手術でも開腹手術でも同じであり、切除 する範囲は基本的には変わりません。当院では昨年度から本格的に腹腔鏡下胃切除術を導入しており、20人以上の患者さんに行い、ほぼ満足した結果を得られ ています。ただし、技術的に難しい面があり、どこの施設でも行っている手術ではありません。癌の進行度や切除範囲が広い場合は、腹腔鏡手術が行えないこと もあります。胃の手術が必要な患者さんは、腹腔鏡手術の長所・短所などの説明を十分に受けて、納得されたうえで、手術方法を選択してください。