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健康長寿・健康ダイエットは快便から
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2022.08更新:健康は快便から
1: 快便とは
はじめに
大便、うんち、うんこ、みなさんはどのような印象があるでしょうか。汚い、臭い、見たくもない物、汚い物の王様という印象を持っている人が多いと思います。
しかし、世の中で大便をしない人はいません。アイドルでも偉い先生でも、総理大臣でも、天皇陛下でも大便をしますよ。どんな動物でもみんな大便をします。
食べる事は、美味しい、楽しい、うれしい、幸福感いっぱいでいやがる人はいませんね。ファーストフード、ファミリーレストランから高級レストランまで、世の中は情報であふれています。テレビでも食事からスイーツまで、どこのテレビ番組をかけても毎日放送されています。
食事の時に大便の話をすると、いやがられたり、怒られたりします。
しかし、医学的にも、健康で暮らしていくために最も求められることは、快食、快便、快眠であるといわれています。
また、1日の3分の1は睡眠時間であり、快眠を求めて良く眠れる枕や、より快適を求める高級ベットまで、情報がいっぱいです。
なぜ大便の情報がこんなにも少ないのでしょうか。
それは、大便は汚いという理由だけで、みんなが話をするのを避けているのです。
これほど大切な事を、家庭においても、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校とどの時期においても、正確な教育がおこなわれていないのが現状です。世の中には、まちがった情報がいっぱいで、これを訂正する機関もありません。これで快便を期待できるのは不可能です。
大便は健康状態を表す「大きな便り」
まずは最初に、大便がいかに大切なものかという話をします。
昔の人は、自分体調をみるのに、からだがだるくないか、熱はないか、痛いところはないか、気持ちが悪いところがないか、何か変わったところはないかを考えます。体調の悪い人を診る場合は、顔色が悪いか、元気がないか、などいつも違ったところはないかなどを考えます。このときに最も体調の様子を表してくれる情報源が大便でした。昔は血液検査や、レントゲン写真もない頃、昔の医師は大便をみて人の健康状態を見ていたのです。大便は「おおきなたより」と書きます。ちなみに小便は「ちいさなたより」と書きます。大便は健康状態を表す「大きな便り」であり、生活の評論家・通知表です。大便は最近では、全世界の研究者がビックデータとしてみなおされ、研究され始めています。
この大便のビックデータは様々な体調により影響を受けます。
食べ物はもちろんですが、その日の体調や、お腹の働きの調子にも影響されます。すなわちみなさんがよく言う、自律神経が大きく係わっています。
自律神経て何?あらためて質問されると、説明できますか?
それでは順を追って説明していきましょう。
大便の出方は、体の調子に影響され、これを左右するのは、食事、仕事や運動、ストレス、睡眠、日常生活などが大きく関係します。
人間は生きていくために、生まれつき、様々な機能が備わっています。これは人間がこの世に生まれた頃から、もっとさかのぼると、生物が地球に生まれた頃から、そしてほ乳類が生まれた頃から、食事を取って、栄養をとり、健康な体をつくり、この世で活躍する為、そして子孫を残し、繁栄するために、その遺伝子がもくもくと伝えられてきています。どんな動物でも食事をとり、栄養をとり、その後に排便をします。
すなわち、食事と栄養吸収・排便は、生まれたときから備わっている消化吸収機能なのです。消化吸収機能をいかに最大限の機能を発揮させるかが快便の秘訣と言えます。
自律神経の働きで、胃が働き、小腸、大腸と蠕動がおこり、直腸へと運動が伝わり、便意を促し、自然とツルンとスッキリと出る便が快便の基本です。怒責して便を出すのが快便ではありません。
2: 大便ができるまでの体の構造を理解する
まずは食事を取ることから話しを始めましょう。
人は、食物を目で見て、臭いを嗅いで食べる事ができるかを判断します。同時に、食欲を感じると同時に、幸福感を感じ取り、反射的に唾液腺からの唾液分泌が始まります。これも自律神経の働きです。口腔内の構造は極めて巧妙に作られています。口腔は食事の機能と呼吸機能、発音機能など極めて多機能に及びます。今回は食事の機能に限定してお話をします。口、舌、歯の巧妙な動きと味覚を感じる神経により、食事を取る時の最初のチェックが始まります。人間には5感があり、食事の時には視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚すべてを使い、食事を取るときの幸福感を感じると同時に、無意識のうちに問題がないかのチェック機能が働くのです。さらに味覚の中には、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味を感じ取り美味しく安全に食事が取れるように働いているのです。味覚以外にも化学的刺激、温度、舌触りなどを感じ取る繊細な機能を備えているのです。歯でかみ切り、咀嚼し、舌の動きと連携することにより、食べ物をより吸収しやすい形へと変えていきます。歯をかみしめたときの力は咬合力といい成人では通常50Kg程度あります。唾液腺からでる唾液と混ざり、吸収されやすい状態に変化していきます。本来、重要なこの過程は、現代人では次第に活用されなくなり、健康に大きな弊害を来してきています。美味しい食事は、柔らかくて食べやすい形に変わりつつあり、そのため顎の骨格や筋肉、歯などが退化してきています。口腔周囲にある筋肉の退化と顎の退化による顎の形が小さくなってきています。そのため下顎が小さくなり、歯列の不正や第3大臼歯はうまく生えてこなくなり、抜歯が必要となるケースが増えてきています。ものもと100万年前に猿人たちは噛むことにより咬筋(こうきん)が発達し、大脳が発達し現在の人間になったと言われており、現代人はその機能が退化しつつあり、咀嚼の再認識が必要と言われています。咀嚼について考えてみましょう。
咀嚼の効果1:脳が活性化し、痴呆を防ぐ。
よく噛む人ほど脳が活発に機能し、記憶力、判断力、集中力が高まると言われています。
咀嚼の効果2:歯を丈夫にする。
歯には神経や血管が通った歯髄があり象牙質の知覚を感じ取り、歯の高度を保つ働きがあります。咀嚼によりセメント質は高度6から7(水晶と同等)のエナメル質を健康に保つ働きをしています。歯根膜には咀嚼圧に対して、触覚、圧覚、痛覚を自覚させ歯の硬組織の代謝を活発に行い恒常性の維持につとめていると同時に、食感を高め、食事をより美味しくさせているのです。インプラントや入れ歯ではこの機能は期待できません。
また咀嚼により1日1.0から1.5リットルの唾液が分泌されます。唾液は抗菌作用のある酵素や、カルシウムを結合して歯を強化するタンパク質など、虫歯を寄せ付けない成分が含まれています。噛めば噛むほど唾液はたくさん分泌されます。
咀嚼の効果3:消化吸収を高める。
唾液に含まれるアミラーゼなどの酵素は、食物の消化を助け、胃腸の負担を軽減してくれます。
咀嚼の効果4:生活習慣病を防ぐ。
唾液に含まれるペルオキシダーゼは、活性酸素を抑制し、がん予防以外に、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病にも有効です。
咀嚼の効果5:ダイエット効果や便秘を予防する。
唾液は良質な溶ける繊維であり、野菜不足の現代人には有用な繊維食物のたすけとなり、便秘予防や快便に有用です。また噛むことにより満腹中枢が刺激され、食べ過ぎにも効果的です。
咀嚼を鍛えるには、歯ごたえのある食事をとる。食事はゆっくり時間をかけることが大切です。
歯磨きは毎日、できれば毎食後の歯磨きが良い。
できれば1日1回は丁寧に歯垢をおとすことをおすすめします。
また、唾液腺が少ない人以外は、食後すぐ歯磨きしても問題ないこともわかっています。
歯の欠損、歯周病では正常な咀嚼ができなくなり、人が食事を取る基本的機能を障害し、健康を害します。
健康長寿の基本中の基本です。80歳で20本の歯の保存に向けて歯のケアとしましょう。
咀嚼のメカニズムは無意識に極めて巧妙に行われています。
歯に表面には感覚は無いが、歯に物が触れば、直ちに感知できる。これは歯根膜内の感覚受容器の作用によるもので、歯根膜内には極めて敏感な感圧レセプターがあり、歯に加わる力の大きさや方向まで感知可能である。そのおかげで上下顎の歯の咬合面の間にある食物の硬さや大きさなどの微細な性状を識別できるのです。そして食物の性状に合わせて、無意識に下顎の位置や噛む力を調整し、円滑に咀嚼ができるのです。咀嚼に続いて舌や口蓋の触覚も手伝い、無意識に嚥下反応が起こり、スムーズな嚥下が可能となるのです。インプラントや入れ歯ではこの機能は期待できません。
良く噛むことから始まり、自分の元気な歯を維持することは、美味しく食事を取り、消化吸収、快便へと進める第一歩として、健康長寿を実現する上で、極めて大切なことなのです。
しかしながら、現在では、柔らかくで美味しい食物は美食とされ、好まれています。硬い食物は避けられる傾向にあります。歯の並び方においても、外観の審美性を求め、安易に歯を抜いて、インプラントに入れ替える人も増えています。このため、本来、美味しく食事ができるはずの事が不可能となり、嚥下機能も低下し、食欲も無くなり、誤嚥性肺炎を防ぐ事ができなくなるのです。
直ぐにでもやるべき大切な事は、食物はよく噛んで食べましょう。食後は直ぐに歯磨きをしましょう。いつも歯ブラシを携帯し、ブラッシングだけでも行うと良いでしょう。1日1回は十分な歯磨きを行い、歯垢を落とすように努力することが必要です。虫歯(う蝕症)や歯周病を予防することが歯の喪失を予防する上でもっとも重要なのです。虫歯を予防するには、酸をつくらない食物の取り方とフッ素の適切な利用と歯磨きです。『歯に信頼マーク』や『特定保健用食品のむし歯に関する表示』のついた商品を出来るだけ取るようにして、歯垢のPHを下げるような糖類や間食を減らすことが重要です。
丈夫な歯を持つことにより、十分は咀嚼が可能となり、十分な唾液が出て、十分な消化吸収が始まるのです。唾液は上質な繊維であり、排便時の快便に導く大きな働きをしています。正常な歯が快便に大きく関係しているのです。
食事を取った後は、食物は食道をとおり、胃へと運ばれていきます。
食道はのど(咽頭)と胃を結ぶ管状の臓器です。口から入った食べ物や飲み物を胃まで輸送する働きがあります。約25cmあり、蠕動(ぜんどう)運動にて、体が横になっていても口から胃までスムーズに食べ物を胃へ送ることができます。食道には上部と下部に括約筋があり、食物が胃から食道へ逆流するのを防いでいます。人は特に考えなくても、すべて自律神経の働きで口から胃まで食物は自然に胃へと流れていきます。自律神経は巧みな働きをしていますが、日頃からこの自律神経を大切にして、守り育てる事が重要です。
胃は入り口である噴門と胃底部、体部、幽門前庭部に分かれていて、出口である幽門で構成されています。食事が胃に入ってくると、噴門と幽門は閉じた状態で胃は噴門から幽門へと強い蠕動がおこり、胃底部から胃液が分泌され、食物がすり潰され、消化されて粥状に変化していきます。胃の消化液である胃酸はPH3もある強酸性であり、細菌を殺菌したりして消化していきます。しばらくして、消化ある程度消化されてから、幽門が開き、十二指腸へと送られていきます。この胃の蠕動は、次に続く小腸、大腸へと反射的に強い蠕動を起こさせます。
消化液は総量では大人で1日7〜9リットルにもなります。食べたものを分解し、吸収するためで、役目がおわると小腸や大腸で水分は再吸収されます。
大腸の運動はふだんでは弱いですが、胃に食物が入ると腸管全体、特に盲腸から強い大蠕動が起こり、大腸の腸内容を一挙にS状結腸まで送り出します。これを胃結腸反射(Gastrocolic reflex)と言われています。この反射は、空腹時に食事を取った時に特に強く表れます。通常は朝食後にもっとも強い胃結腸反射が起こる事が知られており、早い人では5分、遅い人でも30分くらい後に胃結腸反射が現れ、下行結腸からS状結腸にあった腸内容が一気に直腸へと大蠕動にて直腸へと送られていきます。直腸はふだんでは空であり、便は下行結腸結腸からS状結腸にとどまっていますが、この大蠕動により、直腸に輸送されてきた便は直腸の壁を伸展させ、直腸内の内圧を高くし、直腸壁を圧迫します。この伸展刺激は直腸の蠕動を誘導し、強い便意を誘発させ、次に肛門括約筋を弛緩させ、トイレに腰掛けると直ぐにスムーズに排便が行われ、なにも怒責しなくても楽に排便が行われるのです。健康な正常な機能が備わっている人なら、誰もが快便が可能です。
もう少し詳しく説明します。胃の蠕動とともに小腸の文節・振子・蠕動運動とともに、腸液、膵液、胆汁が食事の通過に応じて分泌されます。胆嚢は胃の蠕動にひきつづき胆嚢収縮を来し、胆汁を一気に十二指腸に排出し、食物の消化を促します。消化液は1日約9,000mlも分泌されています。その後小腸から結腸、特に上行結腸を通過する間に大部分の水便は吸収され、水分は便の量の60〜75%になり、横行結腸から直腸に行くまでに形成されます。この過程の蠕動と水分吸収、栄養吸収は自律神経の働きで行われています。小腸や大腸の働きは自律神経に支配され、交感神経は消化器の運動を抑制し括約筋を弛緩させ、消化液の分泌を亢進させます。また消化管には筋層感神経叢(アウエルバッハ神経叢)と粘膜下神経叢(マイスネル神経叢)という自律神系の一部である壁在自律神経細胞群があり、自律したネットワークが作られています。
この自律神経のメカニズムが壊れると、下痢、または便秘となってしまいます。
すべての自律神経の働きはうまくいかないと、快便につながりません。大便は『大きなたより』と言われるゆえんです。
直腸からの排便の仕組み
S状結腸から直腸へ輸送されてきた便は直腸内圧を亢進させ、直用壁に圧刺激を与えます。直腸内圧が30〜50mmHgに達すると直腸内反射を来します。直腸内圧の亢進の刺激にてマイスネル神経叢は刺激部位より上部の運動や緊張を高め、反対にアウエルバッハ神経叢は刺激部位より下部の運動や緊張を和らげ、便を下部へと輸送します。また直腸内圧亢進の刺激は直腸壁に分布している骨盤神経を介して、仙随の下部排便中枢であるS2〜S4へと伝えられ、頭の延髄・視床下部の上位排便中枢を経て、大腸皮質の感覚野に伝えられ、便意を感じさせます。
肛門管には、自律神経支配の不随意筋があり、便意によって弛緩する内肛門括約筋(平滑筋)と、随意筋で排便時に意識的に弛緩させて排便しやすくさせる外肛門括約筋(横紋筋)があります。
便意を感じることにより、反射的に自律神経である交感神経の緊張はとれ、逆に副交感神経を興奮させて、直腸筋の蠕動運動を亢進されると同時に不随意筋の内肛門括約筋を弛緩させてスムーズな排便ができるように働きます。また便意に応じて、排便動作に入ると、大脳から陰部神経を経て、外肛門括約筋を弛緩させます。この一連の連携によって生じる便意『出せ出せコール』が快便にとって最も重要なポイントとなります。この一連の動作に加え、腹壁の筋肉と腹圧高める意識的ないきみが同時に起こり、軽いいきみによりスムーズに糞便を体外に排泄できるのです。
繰り返してお話ししますが、便意『出せ出せコール』が快便を成功させる秘訣です。
外肛門括約筋は、便意を意識的に調整できるため、直腸内圧が排便反射を起こすまで上昇していなくても、いきみによって排便したり、逆に便意を感じていても排便を抑制することも可能です。この便意『出せ出せコール』を無視した排便抑制が、日常的を行われることにより、便意『出せ出せコール』が消失し、長年の間に一連の連携により生じる便意が反射的に出てこなくなり、便秘の発生と悪化・慢性便秘症へと変化していきます。
便意は自律神経の働きにてもたらされるわけですが、自律神経は様々な環境因子により影響を受けます。排便の回数や量は、生活環境により個体差を大きく、通常と異なっても、直ぐに異常と判断する必要はなく、それほど神経質になる必要もありません。まず、回数は、通常1日1回から2回で、胃-結腸反射の起こりやすい朝食後に排泄することが多く認められます。日常の運動量や生活リズム、心理的ストレス、性格、排便環境とトイレ様式、年齢、性と性周期、薬物の副作用、その他の生活様式などに左右されます。自律神経を無視した、自律神経に逆らう行動には特に注意する必要があります。簡単に言うと、トイレを我慢することが大きな問題です。
それでは、大便についてのおはなしを始めましょう。
大便はうんち、うんこ、くそ、などと言われ、汚い、臭いものとイメージされています。しかし世の中で大便をしない人はいません。お父さんもお母さんも、先生も、犬や猫も大便をします。動物はみんな大便をします。大便は汚いもの、臭いものの代表ですが、人には無くてはならない物です。人は食べる事で栄養を吸収し、残った物を大便として排出します。その過程には、様々な消化吸収の機能が発揮されて、最終的に大便の形になるのです。大便には消化吸収が行われてきた痕跡をのこしており、大便を見ることにより、消化吸収機能が正常かどうかを判断できるのです。自律神経に栄養吸収機能、日頃の生活状況、運動量などとも大きく関連しています。大便は『おおきなたより』と読みますが、まさしく大便は人の健康状態を表す通知表と言われる所以です。人の体は工場とすると、大便はできた製品であり、製品の良し悪しを見れば、工場である人間の体の働きがわかります。昔の人は、レントゲン検査や血液検査ができない時代に、大便をみて、体の健康状態をみていたのです。そのため『おおきなたより』である排泄物を大便と呼んでいるのです。ちなみに、小便を『ちいさなたより』と書き、これも健康状態をしめる通知表でもあるのです。
あなたが、毎日の大便の『たより・通知表』を読めるようになると、消化器や体調の異常を早期に異常を発見し、健康を維持できるようになります。
そのためには、大便の『たより・通知表・評論家』 の意味を理解し、大便が作られるまでの、体の仕組みを今一度理解しておく必要があります。
大便はおならや臭い、粘液の出方などを含めて、その出方は体調に大きく影響されます。大便の出方を左右するのは、食事や仕事、運動、ストレス、睡眠などの日常生活そのものです。生活のリズムが大便を作ります。便秘なら便秘薬を、下痢なら、下痢止めを飲めば良いと考えている人が多くみられますが、発熱時に解熱剤を飲んでいるのと同じで、根本的な感染症や炎症を来す根本的は治療になっていません。
良い大便を作るには、まず良い材料が必要です、美味しいものが良いとは限りません。栄養を考えるのも必要ですが、繊維を十分に取ることが必要です。これは体に良い善玉菌である腸内細菌を育てるためです。繊維には溶けない繊維とゼリー状の溶ける繊維の2種類があります。その中で唾液は良質な溶ける繊維でもあり、咀嚼の重要性を再認識する必要があります。繊維は一般的に野菜や果物に多く含まれ、善玉菌の餌となり、消化吸収や免疫、アレルギー疾患にも関係しています。ふだんから大便の通知表と相談しながら何をどう食べるかを考えておく必要があります。
食べたものは、食後・胃・小腸・大腸をとおり肛門から排泄されます。食べ始めてから12時間から24時間くらいでS状結腸に送られ、平均1日半後に便となり排泄されます。下痢ぎみの人なら半日で、ひどい便秘の人なら1週間もかかる人がいます。こんなに出方が異なるのは、大腸を通過する早さが異なるためです。このスピードが異なるのは自律神経やホルモンが影響しています。お腹が減ったとき、消化管を働かせて、胃や腸をグルグル鳴らしますが、これは空腹は最大の食欲とも言われ、自律神経を活発にさせるには需要の要素でもあります。空腹の時間を作ることも重要です。また自律神経は、汗を調整し、寝ている間も息をさせ、心臓をドキドキさせたり、感情や外からの刺激にも影響されます。睡眠時間にも影響されます。
大便の量について
大人の大便の1日の量は、150gから200g前後と言われています。もちろん食べる量や内容によって異なります。食べ物が肉中心では便の量は少なくなり、野菜や果物が多くなると便の量も増加します。
大便のほとんどは水分でできています。通常の便では水分は約80%です。水分の量が増え90%以上では下痢になります。70%以下では便は硬便となります。ちなみに人間は成分で言えば70%が水分でできています。
大便の繊維について、もう少し詳しく述べておきます。
消化できなかった食べ物のカスは、食物繊維に左右されます。水を含んで膨らみ、胃や腸でも消化吸収されません。代用的な物に、寒天・きくらげ・キノコ類・ひじき・干し椎茸・あおのり・わけめ・あまのり・昆布・かんぴょう・いんげん、などです。トマトの皮・トウモロコシ・ヒジキも繊維に入ります。あと、寒天やゼリー・ジャムに入っているペクチンも溶ける繊維の一種です。大便は繊維の量に左右されますが、大便の約30%は腸内細菌で構成されており、残りが水分を含んだ食物繊維と脱落した腸の粘膜で作られています。細菌も繊維も水分を多く含んでおり、大便の成分では約80%が水分となります。食事を取らなくても、腸の脱落した粘膜や、消化液の繊維成分があり、便がつくられます。
便に中には多くの細菌がいます。人の腸の中には1000種類以上の実に100兆個の腸内細菌が住み着いています。人の遺伝子2万個に対して腸内細菌由来の遺伝子は100万個もあり、様々な腸内細菌があり、インスリンや酵素を作る遺伝子もあり、人間と腸内細菌は共存していることがわかってきました。ある菌は消化や吸収を助け、ある細菌は必要なビタミンの合成の手助けもしています。粘膜が機能するためのエネルギーを作る細菌もいます。ビフィズス菌や乳酸菌は病気を起こす悪玉菌の働きを抑えます。
地球の誕生は40億年前ですが、腸内細菌は30億年前から誕生し、現在まで共存しながら生き延びてきたのです。善玉菌は一般的には繊維を好み繊維を消化する多くの遺伝子を持っています。それに対して、悪玉菌は糖類・脂肪・アルコールを好み、ガン化や炎症・動脈硬化に関わるものを作っていることもわかってきています。腸内細菌は肥満とやせを決定している報告も見られます。クローン病患者では腸内細菌の異常も言われています。大腸癌の発生にも腸内細菌や口腔内細菌が関与しているという報告も見られます。腸の中にいる細菌が体に与える影響は大きく、人間の健康や病気、そして寿命にも関係していると言われています。世界で長生きする人が住んでいる地方の大便は腐敗菌が少なく、ビフィズス菌や乳酸菌が多く、臭いも少ないと言われています。腸内細菌と病気との研究では、まだまだわからない事がたくさんあるのです。腸内細菌はどうやら、大昔から人間と助け合って生存しているようです。
腸の粘液についてお話しします。
腸の粘液は、消化管の粘膜から分泌される透明でドロリとしたゼリー状のものです。ムチンと呼ばれている糖と蛋白質でできた大きな分子の化合物です。消化液とは異なり粘膜の表面に薄くへばりついています。粘液の中には細菌がいない状態が保たれます。腸粘膜と食物とに間に層を作り、ばい菌や毒物が体の中に入るのを防いでいます。硬い便もつるつると滑って移動しやすくしています。大便は直腸に近づくと形のある便に変化してきますが、粘膜から分泌される粘液のおかげで、大便は粘液に覆われて、するりと排便ができるのです。この粘液は自律神経の働きで必要十分に分泌されます。自律神経が乱れて粘液分泌が少なくなると、便は滑りが悪くなり、排便障害、便秘になってしまいます。また粘液層が少ないと、細菌からの防御機能が落ちて、腸炎を引き起こしたりします。快便には粘液の分泌が重要なのです。
大便の色についてお話しします。
食べ物は最初から黄色い色ではありません。
胃で消化された食物は十二指腸にさしかかると、肝臓で作られた胆汁と混じり、黄色い色がつきます。胃の酸性の消化液と腸の細菌の影響を受けて黄褐色に変化していきます。便の色はウロビリノーゲン(胆汁色素が腸内細菌により還元されたもの)により黄褐色を呈しています。
おならについてお話しします。
おならは平均すると1発が約100mlで日に5発(500mlのペットボトル1本程度)です。人によっては100mlから3000mlくらいの幅があります。食事の時に空気を飲みもんでしまう人の場合はおならの量も増加します。
おならの成分は、酸素はほとんど吸収され、ほとんどありません。そのかわり腸内の細菌が作った水素ガスや炭酸ガス、メタンガスが多く含まれています。悪臭のあるのはアンモニア、硫化水素、インドール、スカトールのようなガスです。蛋白質をもとに細菌によって作られるため、肉を多く取る人はおならは臭くなります。おならを我慢すると、おならは血液に溶け混み、全身を巡り、肺から息に混じって排出されます。
おならは、トイレか誰もいない時に静かに出すのが良いでしょう。余裕があれば、トイレでおならと大便を出してください。おならは大便より軽く、動きやすいため、腸が動いているかをいち早く教えてくれます。おならの音は笛と同じで、肛門をしっかり締めて、下腹部に力を入れて一気に出すと高い音がします。少し肛門を緩めて出すと、低い音、もしくは静かにおならが出ます。肛門の感覚神経は非常に繊細で肛門括約筋との連携で精密機械の様な構造になっています。直腸肛門の神経は直腸下部に大便があるか、おならか、下痢便かを感じ取ることができます。直腸肛門には密に神経が分布しており、いったん炎症を伴う病気になると激痛を来します。食物繊維を多く取ると、善玉菌が増えて、おならの量が増えますが、悪臭はしなくなります。肉を多くとると臭くなりますが、焼き芋を食べた時は意外と臭くありませんね。
最近は水洗トイレで、排便後にすぐに大便を流してしまうため、大便をしみじみと眺めることはありません。大便は字のごとく『大きなたより』で多くの健康に関する情報を持っています。是非とも、今後は毎日大便を眺めて、自分の健康管理に役立てていただきたいものです。
良い大便とはどのようなものかお話をしたいと思います。良い大便の量は平均バナナ3本分です。1日に1〜2回の排便で、総量は200〜300gにもなります。3つくらいに切れてきます。太さは、個人差はありますが、出始めは足か手の親指くらい、最後は中指くらいが理想でしょう。
良い大便はうすく粘液に覆われているため、するりと排便ができて、肛門はほとんど汚れず、紙でふいても、紙にはほとんど便がつきません。排便時には肛門はわずかに粘膜脱状態になり、排便が行われ、排便が終わると粘膜は肛門内に戻り、元の状態になり、便は肛門周囲の皮膚には付きません。食物繊維の多い大便はするりと排便ができます。肉や油の摂り過ぎた時の大便は、覆われる粘液が少なくなり肛門のまわりにべっとりと付くことが多くなります。食事の内容によって大便の出来ばえも変わってきます。大便の硬さは練り歯磨きのような軟らかめを目指すことをお勧めします。
良い大便は黄金色で悪臭はなく、ほのかに臭いがあります。健康な大便には血がついていたり、多くの粘液を伴うことはありません。水洗トイレではゆっくり沈むくらいが良いでしょう。硬い立派に見える大便は良くありません。ウサギのようなコロコロの便も良くありません。親指大の練り歯磨きくらいの便が良いでしょう。硬い便やコロコロ便の時は、食物繊維を十分にとり、良く噛んで、唾液をたくさん出してゆっくり楽しく食事を取るようにしましょう。まずは食べ方からです。
変わった大便とは
大便は『おおきなたより』を思い出してください。
健康状態を見るには、まず大便の観察からです。
黒褐色の便の時は、肉、卵、チョコレートの食べ過ぎか、便秘が原因のことはないか見直してみましょう。便に血が混じっている場合も便が黒くなります。
暗黒色の便の場合は、胃や十二指腸に潰瘍がある場合や、消化管のどこかに出血のある場合があります。続く場合は、病院で精査が必要です。胃などの上部消化管からの出血の場合には便は赤くなりません。
鮮血色の場合は、痔などの肛門の病気か直腸の病気の場合があります。痔と思っていて実は直腸がんの場合もあります。病院での精査が必要です。
病院に便を持って行けば、便に血が混じっていないか直ぐわかります。ほんの微量の出血でも目で見えない程度でも、病院で検査をすれば正確に判断してもらえます。
何を食べたかも思い出すことが大切です。すいかやトマト、サクランボを多く食べても便が赤くなる場合があります。
人は便に血が付くと焦ってしまいます。ほとんどの場合、痔疾患が多いですが、直腸がんの場合もあります。悩んでいないで、近くの肛門科の先生に受診することをお勧めします。
排便の仕組みについて
毎朝1回、するりと便が出れば理想的ですが、多くの人はそううまくいきません。
出過ぎて困る人や、出なくて困る人、夜しか出ない人など、様々です。これは現代の人々の生活が一定していないためで、ある程度仕方が無いことと思います。1週間も便が出ない人も、1日に3回も行く人もいます。ここでは、排便の原理を理解していただき、そのうえで直せるところが少しでもあれば、改善し、本来の生理的な排便に近づけたら良いでしょう。まずは排便の仕組みを理解することです。皆さんは食事の量と質と食べ方も異なります。ストレスや生活のリズムも異なります。体質も体型も異なります。みんなに当てはまる一つの方法はありません。大便の出方を理解し、解決しましょう。
大便は大腸の左側下方にあるS状結腸という控え室に溜まってきます。直腸はふだんでは何も入っていない空の状態です。大腸で作られた大便はS状結腸にぞくぞくと運ばれてきます。このときに意識して便を出そうとしても大便は出てきません。空腹状態で食事を取ると、胃が活発に動き出し、自律神経を刺激します。空腹状態が強いほど自律神経も強く作用します。逆にお腹が空いていない状態で食事をした場合には自律神経はあまり働きません。空腹は最高の食欲であり、空腹時に食事を取ると自律神経はしっかりと働いてくれます。自律神経をしっかりと働かせるためには、空腹状態を作ることも大切なのです。自律神経は小腸や大腸を刺激し、大腸のS状結腸に溜まっていた大便を直腸へと送り込みます。これを胃・結腸反射と言います。それまで空っぽだった直腸に大便が送り込まれ直腸が広がります。自律神経反射が大きいほど、また大便の量が多いほど、腸内細菌の働きが強いほど、直腸を強く刺激します。そこで人は便意を強く感じるのです。この便意を強く感じることこそ、快便の秘訣なのです。
直腸に大便が入ってきて、初めて大便が来たことを知り、強い便意を感じ、私達に大便の『出せ出せコール』を知らせてくれるのです。これで、トイレに行きたい気持ちになります。このタイミングでトイレに行くと、ただトイレに座るだけで、軽く息むだけで大便をするりと出すことが可能です。直腸肛門反射といって、自然と肛門括約筋は緩み、直腸が収縮し、排便ができるのです。この素晴らしいS状結腸、直腸、肛門との連携が快便をみちびく秘訣なのです。これを理解していないと、せっかくの快便を逃してしまいます。朝食を抜いたり、朝食後の時間が無く、ゆっくり排便する時間がとれず、便意をがまんしたりしていると、この習慣が便意の消失につながり、長年のこの習慣が慢性便秘を人為的に作ってしまうのです。慌ただしい生活を送っていると便意が抑制され、この胃・結腸反射が出なくなってしまいます。ここで多くの人は下剤に頼ってしまうのです。小学生の排便についてのアンケートがあります。
小学生4年生から6年生に毎日うんこがでますか?と質問したところ、4年生は約70%が毎日出ると解答。5年生は約60%が毎日出ると解答。6年生は約50%と解答しています。6年生の女子に至っては毎日出るのは40%以下にもなっています。
いつうんこをしますかの質問に対しては、小学生4年生は朝家で、が約40%、5年生は約35%、6年生は20%との解答です。6年生の女子にいたっては10%との解答でした。小学生4年生以上では半数以上が家に帰ってからとの解答です。学校でうんこをする子はほとんどいませんでした。便意を最も感じる、『出せ出せコール』を感じる朝にうんこをしていないのです。おそらく朝は忙しくてトイレに行く時間がないのではないでしょうか。学校に至っては、授業がぎっしりで、授業の合間や途中にトイレ、なんて絶対いけるような環境にないのではないかと思います。仮に授業中にトイレに行きたいなんていったら、みんなに、からかわれたり、いじめられるたりするかもしれません。
これでは、小学生、中学生、高校と進むにつれて便秘になって当然です。便秘は、ほとんどが人為的に自ら作った病気といっても過言ではありません。現在の小学校、中学校、高校といずれにおいても排便についての教育が全くされていません。これは大問題と思います。多くの便秘で悩む大人たちは、便秘になった原因すら考えずに、ただ市販されている便秘薬を服用すれば、なんとかなると考えています。実際、薬局に行けば、様々な薬が販売されており、各製薬メーカーもこの薬を飲めばすっきり快便できると説明されており、原因の治療についてはほとんど触れていません。直ぐに死につながる病気でも無いと思われて軽視されています。ところがこれは大きな間違いで、高齢者になると便秘か、便秘で無いかは生命予後に大きな差がある事が医学的にもはっきりとわかっています。便秘の人のほうが生命予後は悪いのです。若い時からも便秘は生活の質を大きく悪化させますが、高齢者になると、さらに未だ経験したことのない大きな生活の質の悪化を感じ、便秘に苦しむ事になります。さらに治療にも困難を極めることになります。薬にたよる甘い考え方は、若いうちに改めるべきです。後でお話ししますが、自然快便を導くような薬の使い方が重要です。
快便を目指すうえで重要なことは何か、わかりましたか?
一生、快便を維持するには、腸の生理的な働きと社会生活とをうまくつきあいながら、排便という習慣付けが必要です。便意『出せ出せコール』を大切に育て、守る事が一生快便を維持するための秘訣です。毎日、大便『おおきなたより』をみて日々に生活が正しいかを見直す必要があります。自律神経を、育て守る姿勢が必要です。そうなれば便秘なんて、悩む必要は無くなるでしょう。
3: 排便の障害とはどのようなことが起こっているのか
排便の障害とは、うまく排便ができない事で、便秘のように便が硬くなり、うまく排出ができずに、お腹が張ったり、肛門に痛みをきたしたり、また便秘とは逆に下痢で頻回にトイレに通わなければならなくなったり、排便を我慢できなくなり、便をもらしてしまったりすることを一般には排便障害と言われています。
理想的な排便の形は一般的にはブリストルスケールを用いて判断の指標とします。
一般的にはタイプ3からタイプ5が正常と言われています。
排便障害の原因は、大腸、直腸、肛門の病気に関連したものありますが、間接的には生活環境や、他疾患の影響で排便障害をきたします。
具体的には、大腸がんや痔瘻、痔核、裂肛などの肛門疾患、直腸脱やヒルシュスプルング病などが代表的なものとしてあげられます。大腸がんの手術後に、排便を司る様々な筋肉や神経の障害による排便障害を引き起こすことがあります。
そのほかにも、ストレスや運動不足、食生活の乱れなどによって排便習慣がみだれ、自律神経が正常に働かず、排便障害になることがあります。
2017年の慢性便秘症診療ガイドラインでは、器質的な便秘症と機能的は便秘症に分類されており、器質的な便秘の場合は原疾患の治療が優先されます。機能性の便秘の場合は症候性などの原疾患が原因の場合もありますが、眠剤は安定剤などの薬物性が原因の場合もあります。原因となる疾患が無い場合、ほとんどは、食事習慣や生活習慣からの自律神経のみだれなどが原因で便秘が生じます。これは小児期からの間違った排便習慣によるものがほとんどです。
主な原因としては、やせるためのダイエットによる腸動の減弱、精神的な不安定からくる腸動の減弱、老化にともなう筋力の低下や運動の低下に伴う基礎代謝の低下や腸動の減弱、日々の忙しい生活に追われて排便のタイミングを逃すことから起こる便意の減弱や消失、喫煙からくる腸動・便意の減弱などがあげられます。
便秘の原因を詳しく調べるには、大腸肛門病を扱う医療機関を受診して、様々な検査を行う必要があります。専門施設では、腹部CT検査や、大腸内視鏡検査をはじめ、大腸通過時間測定検査なども行います。また便を排出する機能を見るために、排便造影検査や、直腸肛門内圧検査、直腸肛門内圧の反射検査等も行う必要があります。このような検査をおこなうことにより、習慣性便秘の原因を診断します。
排便障害でもう一つ問題となる疾患に便失禁があります。便失禁とは、『無意識に自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状』と定義されています。また『無意識または自分の意思に反して肛門からガスが漏れる症状』をガス失禁と定義されています。この便失禁とガス失禁を合わせて肛門失禁と定義されています。特に便失禁は社会生活において問題となることが多く、治療の対象となります。本邦においては、65歳以上の調査での有病率は男性8.7%、女性6.6%との報告があります。年齢とともに筋力が減弱し、肛門括約筋の減弱により便意を我慢できなくなったりします。
また肛門括約筋が弱いうえに便意も感じずに便が漏れてしまったりもします。日頃肛門括約筋を意識したり、鍛えたりする機会がなく、老人になって初めて便失禁という未知の世界に入り込んでしまうのです。日本人の高齢化に伴う患者の増加もあり、2017年には便失禁診療ガイドラインが発刊されています。便失禁の原因には背景に様々な要因があり、分娩歴であったり、直腸肛門の手術歴、脊椎・脊髄疾患や骨盤の外傷歴、糖尿病や神経・筋疾患などが散見されます。腸炎や過敏性腸症候群などの便性の異常を来す疾患も便失禁の要因となります。
4: 排便障害の診断
まず、排便障害には大きく分けて、便が出にくいのか。便が漏れやすいのかによって、便秘か便失禁かに分類されます。便秘とは、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態と定義されています。また便失禁とは見意識または自分の意思に反して肛門から便がもれる症状と定義されています。いずれにしても排便障害を診断するには、排便の正常な働きを理解したうえで、正常に機能しているか、していないかを判断し診断する必要があります。簡単に正常な排便について復習してみましょう。まず正常な状態では、便意を感じていないときは、直腸に糞便は無く空虚で、糞便はS状結腸より口側に貯留しています。大蠕動によって、S状結腸の糞便が直腸に移送されて直腸壁が伸展され、便意が生じます。次に直腸肛門興奮反射(外肛門括約筋の反射的収縮)が生じます。続いて直腸肛門抑制反射(内肛門括約筋の反射的弛緩)による内容識別(サンプリング)が行われます。排便に適さない状況では、人は外肛門括約筋・恥骨直腸筋の随意収縮による便保持と便意の調整が可能です。排便に適した状況では、排便姿勢(前傾姿勢)をとって、怒責し(腹空内容の上昇)外肛門
括約筋・恥骨直腸筋の弛緩状態を保ち、排便が行われます。この一連の排便の過程でどこかの部位にて障害が生じると、排便障害が現れます。
慢性便秘の分類では、大腸癌やクローン病、巨大結腸症、直腸重積、直腸瘤などの器質性に基づく慢性便秘症と、排便回数が減少する機能性の慢性便秘症に分類されます。
器質性の便秘症には外科的手術が必要となる場合があります。
その点に関しては、大腸内視鏡検査や、注腸造影検査、腹部CT検査、等の検査による確定診断が必要です。大腸内視鏡検査とは、検査当日の午前中に下剤を服用して、腸のなかを空っぽにしてから、肛門から長い紐状のカメラを入れて大腸の中を観察する検査です。排便異常になっている原因があるか検査をします。たとえば大腸癌があり、大腸の内腔が狭くなり詰まりかけていないか?大腸炎による狭窄がないか?などを確認します。注腸検査とは、検査前に下剤を服用して、腸のなかを空にしてから、レントゲンで写るバリウムを肛門より注入して、大腸の形を観察する検査です。大腸が狭くなっているか?腸に潰瘍などの病変がないか?を確認します。腹部CT検査は放射線検査の一種ですが、小腸や大腸の狭窄部位や炎症による壁の肥厚などが確認出来ます。
機能性の便秘症には、大腸が悪い場合と直腸肛門が悪い場合があります。原因を調べるには、大腸の通過時間検査や症候性の疾患の有無の検索が必要となります。また直腸肛門領域の機能性排出障害に対しては、直腸肛門の機能が正常に働いているかどうかを調べる必要があります。具体的には、排便造影検査、直腸肛門内圧検査や直腸肛門反射を調べます。
大腸通過時間測定検査は、レントゲンで写るカプセルを服用していただき、時間ごとに大腸のどのあたりにいるかを確認し、大腸が正常に蠕動し、便を肛門まで運んでいるかを確認します。大腸のどの部位で便を運ぶ機能が落ちているのかを診断できます。
また、直腸肛門の機能障害の検査では、便意を感じる機能がおちているのか、便意はあるが排便する時の機能が落ちているのかを調べます。排便造影検査では、直腸に異常な袋(直腸瘤:便が溜まる袋状のもの)がないか、直腸肛門に狭いところはないか、排便に関わる肛門周囲の筋肉が正常に働いているかどうかを調べることが出来ます。直腸肛門内圧検査や直腸肛門反射では、正常な肛門括約筋の機能があるか、直腸肛門の反射の連携がうまくいっているか、などが確認出来ます。排便障害の原因を確認して、原因に応じた治療を行います。
排便障害の原因には、その他に様々な病気が隠れている場合があり、病状が続く場合には専門施設への受診が必要となります。
その他に、特発性慢性便秘症・腸管偽閉塞症(Ogilvie症候群)や急性結腸偽性閉塞症(ACPO)と慢性腸管偽閉塞症(CIPO)があり、特別な治療が必要となります。
急性結腸偽性閉塞症(ACPO)とは
特発性(5%以下) 二次的に引き起こす疾患がない
二次性(95%以上) 慢性腎不全、呼吸・中枢神経・心疾患、整形外科手術後、外傷後
慢性腸管偽閉塞症(CIPO)とは
特発性は腸管異常が原因 二次的に引き起こす疾患がない
二次性は自律神経障害、腸管神経障害、腸管平滑筋障害、腸管神経筋混合性障害、薬剤
一般的に難治性で、全体の予後は不良で、死亡率は10〜25%と報告されている。
必要に応じて、外科的手術行われる場合があります。
5: おしりの病気
排便障害を来す疾患にはおしりの病気が大きな原因となっている場合が多くあります。
おしりにはいろいろな病気があるが、特に痔疾患は多くの人が悩んでおり、排便に大きな影響を及ぼします。痔について勉強してみましょう。
はじめに痔とは?
痔は症状がある人だけでも成人の約半数もいるといわれています。悩んでいるのはあなた一人ではありません。痔のタイプとその症状について考えてみましょう。
痔は次の痔核・痔瘻・裂肛の3つに大きく分けられます。
「痔核」では直腸肛門部の血行が悪くなり、血管の一部が風船のようにふくれあがり、出血、脱出をおこします。「痔瘻」では肛門から細菌感染がおこり、肛門周囲にうみがたまります。
「裂肛」では硬い便によって肛門上皮がさけて、痛み、出血をおこします。
痔と生活習慣
痔は生活習慣と密接な関係があります。おもな原因は、便秘や下痢などで肛門に大きな負担がかかることにより、病気を引き起こします。便秘や下痢になるような生活をしていると、痔になる確率がたかくなります。
男・女ではなりやすい痔が違います。
痔でももっともおおいのは痔核です。2番目におおいのは、男性は痔瘻、女性は裂肛です。
大まかな割合を示します。
男性 痔核 50% 女性 痔核 60%
痔瘻 20% 痔瘻 5%
裂肛 10% 裂肛 15%
その他 20% その他 20%
おしりは非常に繊細でいろいろな役目をしています。
おしりのことを理解しましょう。
肛門は、乳児のときに口のほうから下がってきた腸と、おしりのほうからくぼんできた皮膚とがつながり、1本の通り道になったものです。そのため、構造、伸縮性などが異なる2つの組織が同居しています。とても複雑な構造になっています。
おしりの解剖図
肛門括約筋・静脈叢の発生の部位が異なります。
すなわち、歯状線(粘膜と皮膚との境目)より直腸側(口側・上)と肛門側(皮膚側・下)とは性質が異なります。直腸側の粘膜は痛みを感じないが、歯状線より下の肛門側は痛みを感じます。その違いを図示します。
また、歯状線より口側でも皮膚側の両方とも・極めて繊細な感覚神経が備わっています。固形便か、下痢か、おならか、肛門は鑑別しているのです。また巧みな排便機能があり、普段はおしりをしっかり閉めています。
〇1、痔核
痔核には、歯状線よりも上の粘膜の部分にできる内痔核と、下の皮膚の部分にできる外痔核があります。普通、痔核というと内痔核をさします。内痔核は歯状線より口側であるため、痛みを感じません。おもな症状は出血です。歯状線より下の痔核は外痔核といい、これが主張した場合は疼痛を来します。痔核が出来やすい場所は時計の針にたとえると、6時が後方、12時が前方とすると、痔核動脈の解剖学的位置の関係から3時、7時、11時に出来やすいと言われています。また痔核の脱出の程度や症状から分類して、Ⅰ度からⅣ度まで分類されています。これはGoligher(ゴリガー)の分類と言われています。一般的にはⅢ度Ⅳ度になると手術適応と言われています。
痔核治療
内痔核
Ⅰ度 痔核の脱出はない。痛みはなく、排便時に鮮血の出血することが多い 保存療法
Ⅱ度 排便時に脱出するが、自然に戻る 外来処置
Ⅲ度 脱出して、指で押し込まないと戻らない 手術療法
Ⅳ度 指で押し込んでも戻らず、出たままの状態となる
粘液がしみ出て下着が汚れる 手術療法
激しい痛みを伴う痔核
血栓性外痔核 肛門周囲に血栓(血の塊)が作られたもの
嵌頓痔核 痔核内に血栓が多くでき、嵌頓状態
(脱出して腫れ、戻らなくなる)となったもの 保存療法
または 手術療法
内痔核は痛くないが、外痔核はとても痛いため、症状にあった治療が必要となります。
手術治療の選択としては
結紮切除術 (Ligation and Excision):LE
内痔核3度以上で、内痔核および外痔核の手術処置が必要なもの
PPH(procedure for prolapse and hemorroids):PPH
Stapled Haemorrhoidopexy Longo’s procedure
内痔核3度で外痔核成分のないもの・全周性の内痔核を伴うものが適応となる。
内痔核硬化療法 ALTA注射:ALTA
内痔核3度で外痔核成分のないもの。原則として、全周性でないものが適応対象となる
痔核に対する治療法もここ10年で様変わりし、より痛みの少ない、低侵襲の手術が可能となりました。
結紮切除術(LE)とは 内外痔核を手術的に切除する方法です。
手術の体位はジャックナイフ位、砕石位、シムス位などで手術が大なわれます。
結紮切除はどのような程度の痔核にも施行可能であるが、根治性が高い反面、手術は熟練を要します。
PPH手技(環状自動縫合器を用いた切除術)とは痔核の上部の直腸粘膜と痔核位入る動脈をを環状に切除し、脱出した内痔核を持ち上げて本来の位置に直し、同時に内痔核への血流を減少させることによって痔核を縮小させます。術後から通常4~6週間以内に完治します。
PPHは痛みを感じる神経のない部分、つまり肛門管内の歯状線(痛覚ライン)より上で処置されるため、従来の痔核切除術より痛みが少ないのです。よって、PPHは、痛みが少なく、回復が早い治療法で、早期社会復帰が可能となります。
痔核硬化療法、四段階注射法(ALTA法)とは、内痔核に薬液の注射を行い、痔核を縮小させる治療法です。痔核内に満遍なく硬化療法治療薬(硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸:alminium potassium sulfate tannic acid)を注入するために四段階注射法といる特殊な手技にて治療を行います。間違った使用方法で行うと、合併症(出血や疼痛、肛門狭窄など)を来すため、この手技を会得した医師しか、この治療を行うことは出来ません。
ALTAの局所投与にて、血流遮断を介した止血および痔核の縮小、更に無菌性炎症を介した持続的な線維化による、粘膜層、粘膜下層の筋層への癒着・固定を促進し、非観血的に病変組織を硬化退縮させることにより、脱出と排便時の出血を消失させます。従来、手術の適応となっていた重度内痔核の患者にとっても、新たな選択肢となります。また手術療法に比べ入院期間が短縮されることから、社会生活への早期復帰が可能となります。本法は四段階注射という独特の手技を用いて投与するので、痔治療に精通し、外科専門医で本法の手技を理解し、認可を受けた医師のみがクスリの使用を許されます。この治療法はメスやハサミによる侵襲が無いため、疼痛が少なく、低侵襲で、早期の社会復帰が期待出来ます。
痔核治療、手技別のおおまかな入院期間の比較
○結紮切除術(LE) 8.21 ± 4.19日
○LE + ALTA 7.28 ± 3.06日
○環状自動縫合器(PPH) 6.29± 3.24日
○痔核硬化療法(四段階注射法 ALTA) 4.07 ± 0.99日
結紮切除術(LE)とALTA硬化療法の併用により、今までLEの適応であった症例に対して、入院期間の短縮がえられました。
痔疾患(痔核、痔瘻、裂肛、直腸脱、排便障害など)に対する、当院での治療動向
当院のような肛門専門病院では、痔核、痔瘻、裂肛は1000例以上の経験を持つ専門スタッフが治療・指導にあたります。基本的には保存的療法ですが、紹介患者様も含めると、当院に来院される痔疾患の約半数が手術になっています。痔核、痔瘻、裂肛は根治手術を行うのはもちろんですが、より根治度の高い、疼痛の少ない、機能を温存した手術、入院期間の短い手術を心がけています。痔核の手術には、従来の結紮切除手術以外にも、最近行われる様になった、より痛みの少ない痔核硬化療法(四段階注射療法.ALTA注射)、およびPPH(肛門環状自動縫合器を用いた痔核上の直腸粘膜切除、肛門つり上げ固定術)が適応病状に応じて選択できます。各々の平均入院期間は硬化療法4日、痔核切除術は8日、痔核切除術と痔核硬化療法併用は6日、PPHは6日でした。より疼痛が少なく、より根治性の高い痔核切除術と痔核硬化療法併用治療が増加してきています。
〇2、痔瘻
直腸と肛門のさかいめ、つまり、歯状線の小さいくぼみから大腸菌などが入り込み、直腸と肛門の周囲が化膿したものを肛門周囲膿瘍といいます。
膿瘍(おできのようなもの)が切開されるか、あるいは自然に破れたりすると膿(うみ)が出て、直腸、肛門とつながったうみの管ができます。これを痔瘻(じろう)といいます。
病気の原因は肛門小窩という入り口からの感染で起こります。
基本的な根治手術は、入り口を含めて全瘻管を切除し、入り口を閉鎖または開放します。
複雑な痔瘻は、数回に分けて手術を行います。複雑な痔瘻をより単純化してから、根治へもっていきます。シートンというひもを使って痔瘻を治す場合もあります。
繊細な高度な技術を要するため、専門医に相談しましょう。
時間をかけて、1〜7までシートンで治療する。または1〜5まで単純化してから、単純痔瘻として根治術を行う。シートン療法は時間がかかるが、肛門変形医が少なく、機能障害が少ないという利点がある。当院での痔瘻に対する基本手術術式は、もっとも根治性が高い手術を選択しています。
1:根治性の高い、原発口(肛門小窩)と原発巣の完全切除を原則として行います。
2:深い痔瘻には、くり抜きとシートンを併用して、括約筋障害を最小にするよう努力しています。
3:深い複雑痔瘻で、一期に行うと括約筋損傷、肛門変形が心配される場合は、シートン等で痔瘻を単純化したから、二期的に根治手術を行います。
〇3、裂肛
裂肛(anal fissure,fissure-in-ano)とは、歯状線から肛門縁の肛門上皮に発生した裂創・びらんで、浅いびらんから、亀裂を伴う深い潰瘍まで様々です。乳幼児から成人に幅広く見られ、痛みと出血の症状を来します。20〜40歳代の女性に多くみられます。硬い便や、下痢による肛門の炎症におり皮膚が切れておこります。慢性化すると潰瘍になり肛門が狭くなります。狭くなるとますます肛門が切れやすくなり、治りにくくなります。こうした悪循環になると、肛門狭窄になり手術が必要となります。原因としては、ライフスタイルに大きく影響されます。食生活、排便習慣、修学、就労、妊娠出産、生活環境の変化、睡眠、避け・たばこなどにより影響されます。そのため、10〜20歳代では裂肛は女性に多く、60〜70歳代では男性に多く見られます.乳幼児では女児がほとんどで6ヶ月から1歳に多く見られます。体質的要因としては、肛門の局所の血流や肛門括約筋機能に影響され、心理的ストレスによる肛門管内の圧力上昇が裂肛の要因とされています。
手術は、硬い慢性の裂肛を切除し、肛門を拡張形成します。
様々な手術方法が考案されていますが、当院では、術後の肛門変形の少ないzigzagSSG
を行っています。
〇4:直腸脱
肛門から直腸が脱出する病気で、2〜3歳および高齢者に多くみられます。高齢化にともない増加している病気です。肛門周囲の筋肉や支持組織が弱くなり、直腸が反転して裏返しになり、肛門から飛び出す病気です。高齢者に多いため、なるべく負担の無い手術を行っています。
手術方法
1:おしりから行う手術 2:お腹から行う手術 3:腹腔鏡をもちいて行う手術 があります。
当院ではデロルメ変法手術(Delorme変法・梅枝式)(おしりから行う手術)を第一選択にしており、高齢者にも優しい手術であり、再発率も4.30%で極めて良好です。
通常5cm以内の直腸脱に対しては、Delorme 変法手術が第一選択であり、可能な限り括約筋を温存出来て、術後の便失禁を予防する目的に適しています。術後の肛門リハビリにも期待できます。
脱出長の長い直腸脱(5cm以上の脱出)には、さらに肛門括約筋の機能低下があり、術後の肛門リハビリに期待出来ない症例には、アルテマイヤー(Altemeier手術)または腹腔鏡下手術が適応となります。
排便障害をきたす、見逃してはいけない病気
炎症性腸疾患、大腸癌、直腸癌 について
炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病
クローン病のX線像と病変
炎症性腸疾患は早期に専門病院(大腸肛門病・IBDセンター)での治療が必要です。
IBD(潰瘍性大腸炎、クローン病)
クローン病の腸管病変
1、 内科的、保存的治療を原則とする。保存的には白血球除去療法、レミケード、ヒュミラ、シンポニー、ステラーラ、エンタイビオ、ゼルヤンツなどによる治療、成分栄養療法、食事療法などの治療を行います。
2、 保存的治療が不可能な場合は、開腹手術、または侵襲の少ない腹腔鏡補助下手術を行います。
3、 外科手術の場合、切除範囲は極力最小限とし、吻合部は狭窄の少ない吻合を行う。クローン病の腸管狭窄には、狭窄形成術、を第一選択とし、腸管切除は可能な限り保存的名方法で治療します。
4、 肛門疾患に対する治療としては、IBDにおける難治性痔瘻に関してはseton 法を用いるなど、出来る限り保存的な方法で治療します。
5、 長期の療養を要する疾患であるため、栄養、心理的ケアーを重視し、管理栄養士による栄養相談、心理療法士による治療が必要です。
大腸癌
大腸癌が原因で排便障害を来す場合があります。特に直腸付近に癌が出来た場合は、便に血が混じったり、腸閉塞を来す場合があります。治療には進行度により手術や化学療法などの治療が必要となります。
必要に応じて拡大手術を行っていますが、機能温存できるものに対しては出来るだけ侵襲の少ない手術を行っています。直腸癌に対しては出来る限り直腸低位前方切除術を行い、人工肛門を造らないような手術を行っています。超低前方切除術、ISR(内肛門括約筋切除切除・自然肛門温存術)も症例に応じて行っています。人工肛門を造らなくてはならなくなった場合でも、専門スタッフが対応し、QOL(生活の質)を考えた治療がおこなわれます。また最近では、ほとんどの症例で腹腔鏡下での手術がなされており、常に根治性と、よりQOLを考えた最先端の治療が行われます。
大腸癌の再発の場合でも、再手術が可能な場合、たとえば肝転移に対する肝切除等に対しても積極的に施行されており、出血量も500ml前後と安全に行われます。また根治手術が不可能である場合は、化学療法室での化学療法専門医および、専門スタッフのもとで最先端の化学療法(5−FU+LV療法,UFT/LV療法,カペシタビン療法,IRI療法、FOLFOX療法XELOX療法,CapOX療法,FTD/TPI療法,分子標的治療薬,FOLFIRI,アバスチン,アービタックス,ベクティビックス,CPT-11,S-1,免疫チェックポイント阻害剤など)が行われます。
6: 排便障害の治療
A:便秘症の治療方針
便秘は極めてありふれた症状の一つであるが、それほど深刻な病気として取り上げることはありません。一般の薬局にいけば,いろいろな種類の下剤が販売されており、困ったときに薬を利用すれば解消されると思われている。しかしながら、便秘になるには様々な原因があり、その原因から解決していかないと、真の便秘の解消にはなりません。まずは便秘の原因分析から考え、便秘の定義、便秘の分類そして、おのおのに適した治療法を考えて見る必要があります。
便秘の定義
「便秘」とは病名では無く、状態を表す名前であり、そのため病気としての意識が無く、軽く見られている風潮がある。そのため、真剣に便秘を治そうと考えている人は少ない。しかし、いざひどい便秘になると、腹満・腹痛で生活レベルも低下し、生活の質(QOL)の低下につながる人が少なくない。また便秘がもたらす多くの疾患を来たす事になる。しかし気づいた頃には簡単には直らない状態まで悪化していることが少なくない。便秘を理解し、便秘の解消の仕方を理解していただきたい。
まず便秘の定義について、便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分かつ快適に排泄できない状態」をいいます。
便が硬くて出にくいとか、4日に1回しか便が出ないとか、排便をしてもいつも残っている感じがするとか、いろいろな状態を便秘といっている人が多く見られます。常に便秘に悩まされている状態は、慢性便秘と言われ、診断と治療が必要となります。
慢性便秘(症)の分類
便秘の原因は大きく分けて、腸が狭くなって出にくい場合の器質的な便秘と腸管も動きが低下し便が送られていかない機能性の便秘があります。
たとえば大腸癌のように腸が狭くなり便が通らなくなり腸閉塞にて病院に来られる人は器質的な便秘にあたります。器質的便秘には、その他にクローン病、虚血性大腸炎、巨大結腸症、直腸瘤、直腸重積、巨大直腸などがあります。また、高齢であったり、安定剤を服用していたりして、腸の動きが悪くなり便が出にくくなる人は機能性便秘にあたります。その他には内分泌異常や、筋疾患、膠原病、経口摂取不足、も機能性便秘にあたります。腸管の動き以外には、直腸に便がきているにもかかわらず、うまく排便できない人がいます。便意を感じなくなり、筋力が落ちて、うまく怒責できない機能性排出障害による便秘があります。専門の医院や病院に行くと、いろいろな検査を行い、原因をつきとめてくれます。
原因となる病態・疾患をつきとめることにより、正しい便秘の治療が可能となります。とりあえず下剤を服用するだけでは真の便秘治療にはなりません。原因となる病態によっては、癌のように手遅れになる場合もあります。
機能性の便秘の場合は、狭窄の原因治療が必要となります。
機能性の便秘のばあいは、排便回数減少型の便秘か、排便困難型の便秘かの鑑別には少し検査が必要となります。また治療が必要かどうかは慢性便秘症の診断基準が一つの判断材料になります。
慢性便秘症は、平成25年厚生労働省の国民生活基礎調査では、男性2.6%、女性4.9%で女性に多く見られます。また50歳以下では女性に多く見られますが70歳以上では性差は無くなり、加齢に伴い増加が見られます。最近では高齢者の便秘が大きな問題となってきています。
生活習慣では、朝食を取らない人に便秘が多く見られます。また、昼食を取らない人やダイエット経験のある人、その他運動をしない人に便秘が多く見られます。また睡眠を十分取らない人にも便秘が多く、しかも中途覚醒時間も長いと報告されており、睡眠の質が悪いことも問題となっています。慢性便秘症の原因としては、心理的要素も多く報告されており、抑うつや心気症で有意に高いと報告されています。
便秘群と非便秘群に関するコホート研究では、便秘群は非便秘群と比較して、有意に大腸癌の罹患率が高いと報告されています。また便秘症は排便時の怒責による高血圧患者における血管トラブルを招きやすいとされ、生命予後にも影響します。
以上のことから、慢性便秘症はしっかりと治療をする必要があります。
医院や病院にかかると、先にのべた生活習慣の改善にくわえ、服薬治療を開始します。内服薬にはいろいろな薬がありますが、代表的な薬としては、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌、などの腸内細菌に関する整腸剤といわれるプロバイオティクス製剤や、水分を蓄える食物繊維を補うような膨張性下剤や、浸透圧性の下剤、刺激性下剤が良く使用されています。最近では、腸内の水分分泌を増加させる上皮機能変容薬がよく使用されるようになってきました。
まずプロバイオティクスについて、一般的には、乳酸菌、酪酸、糖化菌、ビフィズス菌などを意味しますが、食物としても、納豆やお味噌もプロバイオティクスに入ります。腸内細菌叢を整える善玉菌と言われる菌を増加させて、体に悪い悪玉菌の増殖を抑える働きをします。腸内環境を整えて、アミノ酸などの栄養元素をつくり、栄養吸収の役にも立っています。大便の中には多くのプロバイオティクスが存在し、食物繊維としての働きもしていて、便の性状を保つ働きもしています。
膨張性下剤は、おもに食物繊維の代わりをしていて、水分を蓄えて、便量と便の硬さを調整する働きもあり、硬い便にならないように調整しています。食物繊維を十分に取れない人には有用です。
次に浸透圧性下剤について、塩類下剤として、酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの製剤があります.この薬は水分を保持して、便を柔らかくする働きがあります。個人差があり薬量が多いと下痢になりますが、微調整がしやすい為、多くの医院や病院で処方されています。しかしマグネシウムが入っているため、腎機能が悪い人や老人には1.0g以上を服用すると高マグネシウム血症となり、不正脈の原因になる場合があり注意が必要です。
浸透圧性下剤には、糖類による下剤もあります。主にモニラック(ラクツロース)、モビコール(マクロゴール)がよく処方されます。ラクツロースは高アンモニア血漿によく使用されていましたが、最近便秘にも保険収載されました。安全性が高いため、小児や産婦人科の術後にも使用しやすいのが特徴です。
刺激性下剤は、センノシド、センナエキス、センナ、ピコスルファート、坐剤、浣腸などが処方されていますが、一般の薬局でも様々な商品が市販されています。この薬は、服用し始めは腸動を誘発して効果的に排便を促すため、多くの便秘の人が服用していますが、長期に服用すると効果が弱くなってくる欠点あります。そのためついつい下剤の服薬量が多くなってしまうことがあります。その結果、大腸の変性をきたして、下剤に抵抗性の慢性便秘症を来すことがあり、大腸のガン化の原因にもなります。刺激性下剤は時々服用するには有効な薬であるが、連用する薬ではありません。より安全な下剤に変更する必要があります。
最近、上皮機能変容薬がいくつか開発され、服用出来るようになりました。この薬の特徴は従来の便秘薬と作用機序が異なります。小腸上皮に作用し、腸管内に水分や粘液分泌を促進させ、便を軟らかくして腸管の輸送能を高める働きがあることです。上皮機能変容薬の中でアミティーザ(ルビプロストン)は小腸上皮を活性化し、腸管内に水分の分泌を増加させ、便を柔らかくします。本来人間が生まれつき持っていた機能を復活させ、排便作用を促します。すなわち、より自然に近い排便の状態に持って行く作用をもっています。人間は正常な生活リズムと正常な自律神経のもとでは、十分な小腸の粘液水分の分泌を行う事が出来るが、様々な影響で自律神経がみだれて、小腸分泌が減少して便秘になります。小腸分泌を助ける意味ではアミティーザは正常に近い排便作用をうながします。小腸内輸送改善作用、腸液分泌促進作用にて便通異常の改善に寄与するものと考えられている。上皮機能分泌薬の中でもう一つリンゼス(リナクリチド)がありますが、これも腸管内の上皮細胞に作用して、腸管内への水分分泌を促進する働きがあります。主な作用は腸管分泌および腸管輸送能促進作用並びに大腸痛覚過敏改善作用が、排便異常および腹痛・腹部不快感の改善に寄与するものと考えられている。グーフィス錠も新しい便秘治療薬として発売されましたが、アミティーザやリンゼスとは少し異なり、粘液分泌では無く、胆汁酸という消化液の再吸収を抑制することにより大腸内に水分や電解質を分泌させて,消化管運動を亢進させ、便秘を改善させるとされています。これも本来人間が生まれつき持っていた機能を復活させ、排便作用を促します。その他、バルコーゼ顆粒やカルメロースナトリウム原末などの膨張性下剤もありますが、いずれも作用には個人差があり、自分の病態を理解したうえで正しい順番で服薬する必要があります。今まで、何も考えずに直ぐに刺激性下剤を購入して服薬を続けることの無いようにしてください。刺激性下剤の服薬継続は大きな弊害をもたらします。刺激性下剤はいち時期に頓服として服用するのが正しい使い方です。
漢方薬も便秘治療によく処方されます。おもに大黄甘草湯(84番)、麻子仁丸(126番)、大建中湯(100番)がよく処方されます。おのおの病態、病状により処方の仕方が異なっています。
大黄甘草湯は広く常習便秘に処方されますが、胃腸の虚弱な人や,体力の衰えている人には、血圧が変動したり、筋肉痛を来したり、副作用が出る事があるため、医師に相談のうえ服用することをお勧めします。麻子仁丸は、やや体力が低下した老人や病後の虚弱者の常習性便秘に処方されることが多く、腹痛、下痢などを来すことがあり注意が必要です。
大建中湯は体力が低下した人で筋肉が少なく、蠕動が悪く、鼓腸の人に有用であり、腸動の促進に有効です。
便秘の改善の評価は、ブリストルの便形状スケールがよく用いられており。タイプ3からタイプ5が健常の糞便とされており、これを目指して治療を行います。
慢性便秘症の病態生理学の中で、直腸肛門の運動に関する排便障害があります。直腸と肛門の運動反射に関する問題です。正常な状態では、便意を感じていないときは、直腸に糞便は無く空虚で、糞便はS状結腸より口側に貯留している。機能的な便排出障害の原因としては、直腸知覚低下と機能性便排出障害があります。様々な原因で、直腸知覚低下がおこり、直腸肛門反射が消失している状態では無いかと思われます。生活習慣の改善と、バイオフィードバック療法による治療が勧められています。
慢性便秘症の治療には保存的治療と外科的治療があります。
便秘薬などの保存的治療でも改善しない場合で、慢性便秘症が悪化した場合は、手術が必要になる場合があります。
B:便失禁の治療方針
便失禁とは、国際失禁会議にて『自らの意思に反して社会的、衛生的に問題となる状況で液状または固形の便が漏れる症状』と定義されています。
高齢による肛門括約筋の機能低下により、便が漏れてしまう便失禁の患者が増えています。高齢化以外にも、出産時の会陰裂傷、脊椎圧迫骨折や腰痛症、その他の脊椎障害により脊椎神経や仙骨神経の障害からくる肛門括約筋機能障害の患者もみられます。また近年、直腸癌術後の排便障害も増加傾向にあり、その治療が追いついていません。どのように対応していったらよいのかを考えてみたいと思います。
便失禁の有病率は便失禁診療ガイドライン2017年版では、65歳以上の男性8.7%,女性6.6%と報告されています。年齢と供に増加する傾向にあります。
原因には様々なものがあり、加齢によるもの以外に、分娩外傷や手術による機能障害、先天性の肛門疾患、直腸脱や直腸瘤などの後天的な疾患、脳梗塞や認知症からの便意感覚異常、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群など、様々な要因にて便失禁を来してきます。
まずは初期診療にて器質的疾患の鑑別が必要です。器質的疾患があれば、その疾患を優先的に治療が必要となります。器質的疾患が無ければ、初期の保存的治療を試みるべきです。具体的には、食事・生活・排便習慣の指導とスキンケアが必要です。また下剤などの内服薬の調整が必要です。
初期診療にあたり、まずは便失禁の症状の評価として、Cleveland Clinic Florida Fecal Incontinence Score(CCFIS)Wexner scoreがよく使用されています。これは便失禁のQOLを評価する上で有用です。また臨床研究ではFecal Incontinence Severity Index (FISI)がよく使用されています。これにより治療後の改善度を評価可能となります。具体的な生理検査としては、直腸内圧検査、感覚検査、肛門管超音波検査、骨盤部のMRI検査、排便造影検査が行われます。その上で、初期保存的治療に加えて、骨盤底筋訓練や肛門括約筋のバイオフィードバック療法が行われます。バイオフィードバック療法とは肛門括約筋の機能訓練であり、ある程度決められたプログラムの元で行う肛門リハビリを意味します。指導内容が理解できる人で、自宅での骨盤底筋訓練を継続するだけの十分な意欲を持った人であれば、有効率は70%程度と報告されています。機能回復が目標点に達しない場合は挿入型肛門用失禁装具(アナルプラグ)や逆行性洗腸法(灌注排便法、経肛門的洗腸法)を行うとQOLの改善が期待出来ます。
様々な保存的治療で改善しない場合は、手術を行う方法もあります、
外傷などで、肛門括約筋の縫合で,肛門括約筋の機能回復が期待出来る場合は肛門括約筋修復術(形成術)分便時会陰裂傷や交通外傷による場合が適応となる事があります。
外傷以外で肛門括約筋機能不全を来している場合、肛門リハビリでも効果が不十分な場合は仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation : SMN)が有用な場合があります。仙骨神経刺激療法(SNM)は、仙骨神経を電気刺激することにより、便失禁や便秘などの排便障害、尿失禁や排尿困難などの下部尿路機能障害、慢性骨盤部痛といった骨盤底機能障害を改善する治療法であり、2014年に4月に便失禁に対しても有効として保険収載されています。仙骨神経刺激療法は低侵襲であり、かつ可逆的な外科治療であり、便失禁に対して、74〜86%の改善を認めている。
排便障害を予防するにはどうしたら良いのか。
排便に関わる生理と診断と治療についてお話をしてきました。
排便障害の治療よりもっと大切なことは、排便障害を来さないようにするには日頃どうしたらよいのかが重要です。なってからは治療が大変です。市販されている薬も多くあり、『これを服用すればスッキリ』のようなコマーシャルは多くみられます。製薬会社は薬を売らないと企業として成り立ちません。予防するには?なんてことは誰もコマーシャルはしません。また日本の教育においても、排便・快便について詳しく教える授業もありません。そのため、成人になってから、老人になってから、健康を壊し苦しむことになるのです。予防こそが最大の健康維持につながります。快便は、体のすべての臓器や器官の働きが正常に健康に機能して、初めて快便という、素晴らしい大便(大きな便り)成績(通知表)となって現れるのです。決して薬さえ飲めば快便になるものではありません。
それでは、快便になるための方法を具体的にお話しします。
大便が出来るまでの体の構造でまず食事を取ることから始まります。
視覚、聴覚、味覚、臭覚、温度を感じて食事を美味しく食べる事が重要です。美味しく食べると、十分な唾液が出て、十分な消化につながります。美味しく食べるためには,丈夫な歯が欠かせません。歯には神経が歯髄まで支配しており、食べ物の硬さや温度、微妙な触感を感じ取り、噛む力を微妙に調整しています。歯は水晶と同等の硬さがあり、成人では50kgの噛む力を生み出します。もし歯が齲歯になっていたり、インプラントでは、微妙な食感を感じ取れず、噛む力の調整も出来ません。噛むことによる食感が鈍くなり、美味しく食事を取れなくなります。噛む力が落ちることにより顎の筋肉や顎骨が弱くなり、正常な歯を支えきれなくなります、食事はよく噛み、十分な唾液を出してから飲み込む事が重要です。食後は必ず歯磨きをすることも大切です。朝、昼、夕、そして間食の後も歯磨きが大切です。健康長寿の秘訣は80歳で永久歯20本の歯の保存が需要です。歯が無いと、美味しく食ることが出来なくなり、体力を保つことは出来ません。美味しく食べる事により、自律神経がしっかりと活動し、続く胃の蠕動や消化液の分泌、小腸、大腸の蠕動へと強い自律神経反射が働き、消化吸収を助けます。毎食前に空腹感を感じてから食事をとると、より強い自律神経反射を引き出すことが出来ます。空腹は最大の食欲でもあり、これが自律神経を育てます。
自律神経は食事を取ってから、順序よく食物を消化しながら、胃、小腸へと蠕動にて、大腸まで運びます。しかし、自律神経は様々な環境因子により影響を受けています。最も大きな影響は生活環境から来るリズムです。1日の始まりで、朝食を取った後に、胃、小腸、大腸と順番に蠕動が起こります。一日のうちで朝食後が最も強く蠕動反射がおこり、胃から大腸までの蠕動が起こります。これを胃-結腸反射(大蠕動)といいます。そして朝食を取ってからしばらくすると、トイレに行きたくなり、トイレに入ると直ぐに大便を、短時間で、スッキリと排便できるのです。この胃-結腸反射(大蠕動)は一日に数回起きますが、朝食の時が最も強い反射が起きます。これも健康な自律神経の反射のおかげです。この自律神経の反射を一生、大切に育てる事こそ、いつまでも快便を維持できる秘訣なのです。人はいつの間にか、朝の時間にせかされて、朝食を急いで十分に噛まずに食べて短時間で済ましたり、時には小食で済ましたり、朝食を抜いたりしてしまい、この胃-結腸反射の自律神経の反射を求めない状態になっています。生まれつき備わっていた、胃-結腸反射は小学生高学年または中学生ころから、反射が弱くなり、ひどい時には反射が消えてしまうこともあります。すなわち便秘症の始まりです。最初は2〜3日に2回の排便となり、高校生、大学生の頃には立派な便秘症になってしまう人がなんて多い事か。朝に時間の余裕がないと、バスや電車に遅れないように、時間にせかされます。ゆっくり排便の時間が取れません。かえって排便を我慢し、便意は消失し、次の便意は翌日の朝までお預けになります。これでは便意が出ない体になってしまいます。結局慢性便秘症になってしまいます。これは、胃-結腸反射という自律神経の反射を大切に育てなかったからです。自律神経を十分意識して生活リズムを考えることが大切です。
立派な自律神経を大切に育てるには、体の基礎を作ることが重要です。まず、体の筋肉量を維持させるとことが大切です。身体の中で最も筋肉が多い所は,もちろん下肢の筋肉です。下肢の筋肉は身体の筋肉の約半分を占めており、下肢の筋肉を使う事が筋肉量を増やすのには効果的です。腕の筋肉や、腹筋の筋肉量は少なく、努力の割に筋肉量は増加しません。運動も少し負荷をかけた運動が効果的です。軽いジョギングや早足の散歩、室内ならエアロバイクなどが効果的です。1日20分以上、週3回以上の負荷が効果的です。下肢への軽い負荷は下肢の筋肉量を増やし、基礎代謝量を増やし、基礎体温の維持や、全身の血液循環の改善をきたし、しっかりした自律神経を造り、消化吸収に効果的に働きます。筋肉量が増加し、基礎体温が安定すると、腸管内の腸内分泌も活発化し、腸の免疫能も向上し、善玉菌の腸内細菌も活発化し、食物の消化吸収能が上がり、腸蠕動も正常化します。自律神経を健康にする体作りが腸を元気にして快便へと導きます。その鍵を握るのが筋肉作りです。人間は、足が弱ると食欲が無くなり、体力が落ち、老化が加速し、フレイルの状態になり、老衰にいたります。整形外科領域ではロコモーティブ症候群と言われています。年老いても歩く事がいかに重要かを知ることが大切です。
排便障害を来さない理想的な生活とは、理想的は快便・健康生活とは、本来の生まれつき備わっている胃—結腸反射、自律神経の反射を無くさないように上手につきあっていくことが大切です。具体的に生活プランを作ってみましょう。まず、朝、余裕を持って早めに起きます。前日の夕食より8時間以上間をおいて朝食を取ることが必要です。食事は余裕を持って、ゆっくりと良く噛んで食べます。しばらくすると便意を催してくるので、便意を見逃さずにトイレに入り、便意の頂点に達した事を確認し、一気に排便します。排便はほとんどの場合3分以内に終了します。強い便意のもとでの排便では、ほとんど残便感はなくなります。食後は必ず歯磨きをします。昼食は毎日決まった時間にとるのが良いでしょう。ゆっくりとよく噛んで食べます。腹八分目くらいの量が良いでしょう。もちろん歯磨きをしっかりします。15時頃に間食を取る場合は、空腹が無くなる程度に控えめが大切です。もちろん歯磨きをしっかりします。夕食を取る時には、おなかの空腹を感じてから取るのが理想的です。食事はゆっくりよく噛んで食べます。もちろん腹八分目がよいでしょう。食後はしっかりと歯磨きをします。特に夜は歯垢を十分に取り去るように時間をかけて歯磨きすることが大切です。不十分な歯磨きでは口腔内に菌が残り、歯周病の原因をつくってしまいます。夕食後はしばらく時間をおいてから就寝に入ることが大切です。一日の食事の時、常に空腹感を感じてから食事を取るよう、毎回の食事量を調整することが大切です。夕食より次の朝食まで、8時間以上空けて食事を取るようにしてください。自律神経の反射をしっかり育てるためです。自律神経を自分の能力に身につけることが便秘を予防して快便生活へとつながります。食事・運動・生活リズム、どれが欠けても快便は期待出来ません。
あなたもできる快便生活
食事・運動・生活リズムが整うと健全な自律神経と、全身の代謝が改善します。消化管内の環境が改善し、腸内細菌が良質な蛋白質を合成し、良質な蛋白の消化吸収が行われます。消化吸収がうまく働くことにより、筋肉質の体が作られ、肥満が解消され、結果として健康なダイエットが可能となります。
快便とダイエット
人が健康で暮らすためには、食事・運動・生活リズムが欠かせません。その健康の指標の一つが快便です。食事をおいしく楽しんでいただくことの大切さ、体を動かして筋肉量を維持することの大切さを、健康維持として欠かせない条件であることを強く発信している所は意外と少ないのが現実です。ダイエット食品、ダイエットになる薬、ダイエット健康器具、その他様々なダイエット商品がありますが、食事・運動・生活リズムを伴わないダイエットは必ず失敗し、不健康な病的状態をつくってしまいます。世の中では、ダイエット商品はたくさんあり、コマーシャルも至る所で見られますが、企業が成り立たないダイエット方法は、ほとんど発信する人はいないのが現状です。しかし正しい健康ダイエットはこの食事・運動・生活リズムにつきます。もう一度見直して、快便について考えてみてください。
食事療法によるダイエットは、そもそも病気の始まりです。
眠剤は腸動を抑制し、慢性便秘を誘発します。
また、喫煙も腸動を抑制し、発がんや慢性便秘症を誘発します。
快便と長寿
高齢になると便秘になるのはなぜでしょうか。
便秘には何らかの原因があります。不規則な食事や生活、食物繊維や水分の摂取不足、食べる量が少ない、イライラや不安など精神的な要因まで、人によってさまざまです。大腸は非常に敏感で、ストレスや緊張で機能異常を起こしやすい器官です。排便をコントロールする脳との連携プレーも、ストレスによってすぐに乱れてしまいます。浣腸や下剤の乱用や、便意を抑制する習慣も便秘につながります。さらに、年齢と供に筋肉量が衰えて基礎代謝が低下し、腸の蠕動運動も低下してしまうため、高齢者は便秘になりやすい傾向があるのです。毎日スッキリ快便にするためには、「良い便を作る」「便を育てる」「便を出す」という、3つの力が大切です。
理想的な良い便とは、いきまずにストーンと出る黄色、もしくは黄色がかった褐色で、水中でほぐれて水に浮く状態です。このような良い便を作るには食べた物で決まります。野菜や豆類、果物、海藻など、食物繊維の多い食事をとることで良い便は作られます。食物繊維は食べカスとなり便の量を増やすだけではなく、便が腸内に滞在する時間を最適にします。
便は腸内に長くとどまるほど固くなり、逆に腸内の滞在時間が最適な便は水分をほどよく含んでいるため、理想的な硬さでストーンと出るようになります。
良い便のもととなる食べ物には他に、発酵食品があります。味噌や納豆、醤油やキムチなどさまざまな食品がありますが、中でもヨーグルトは腸内の環境を整える効果が期待できます。反対に、肉やスナック菓子などの脂質が多いものばかり摂取していると、脂肪を分解する成分が多く分泌されるため、便の色は濃い褐色になり、臭いがきつくなります。これは腸内で腐敗が起こっている合図です。
次に「便を育てる」です。私たちの腸内には善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった腸内細菌がすんでいます。この腸内細菌には理想のバランスがあり、「善玉菌2、悪玉菌1、日和見菌7」が良いといわれています。このバランスが悪いと、便の状態が悪化します。
悪玉菌は、腸内にある食べカスを腐敗させ、ガスや悪臭のもととなる物質を作り出すほか、免疫力を低下させます。善玉菌を増やし、腸内環境を理想のバランスに整えることが、良い便を育てることなのです。
最後は「便を出す力」です。便を押し出す力は、腸腰筋にあります。腸腰筋とは、大腰筋・小腰筋・腸骨筋の3つの筋肉から成り、インナーマッスルのひとつです。便を送り出す蠕動運動は大脳からの指令で起こりますが、最後の一踏ん張りには、腹筋や腸腰筋の力を必要とします。
便秘の解消には、運動も必要です。歩かない習慣は筋肉を衰えさせ、肥満の原因にもなります。目標は1日9,000歩以上。エレベーターを使わず階段を歩いてみる、少し遠くの公園まで散歩に行くなど、少しの行動の積み重ねで、運動量はぐんと増えます。高齢になっても、食事・運動・生活リズムで便秘を予防し、快便にすることが、結果といて長寿につながるのです。
健康ダイエット・健康長寿は快便からです
排便障害を予防するにはどうしたら良いのか
排便障害を予防し、快便を維持するには。生まれつき、子供の頃から、人間に備わっている排便機能を、守り育てることです。基本は食事と運動と規則正しい生活です。大人になり、快便を失った人は、子供の頃にあった排便機能を取り戻すことが必要です。
健康な歯と、規則正しい食事、そして元気な健康な自律神経に裏付けされた、腸動と健康な便意を維持することが大切であり、便意を感じたら、我慢せずに排便する事が快便の秘訣となります。健康な自律神経を大切に育てるには、日頃の努力が必要です。最も大切な要素は体の筋肉です。
体の筋肉量の維持
筋肉が少ないと基礎代謝が減少し、熱を作り出すことが出来なくなり、交感神経も副交感神も自律神経も活性が低下します。筋肉量が少ないと体のあらゆる部分に影響し、体の機能を低下させてしまします。整形外科領域ではロコモーティブシンドローンと言われ、老化を促進してしまいます。歩けなくなったり、関節などの運動機能の低下を来し、寝たきりとなったりします。消化器領域では、基礎代謝の低下により、体内温度が低下し、腸内細菌叢も大きな影響を受け、善玉菌の減少や腸管免疫の低下を来します。その結果、健康な自律神経を維持できなくなり、腸動は弱くなり、消化吸収能の低下、食欲の低下につながり、老衰を促進させてしまいます。筋肉量の低下は脱水に対する抵抗力をも低下させ、糖尿病や成人病の誘発も招きます。体重が維持できていても、筋肉量の低下は、整形外科領域でも消化器領域でも代謝の減少をきたし、肥満を加速させてしまいます。基本は筋肉量の維持が重要です。筋肉量の維持のため、わざわざジムに行く必要はありませんし、決してマッチョになる必要もありません。自分にでも出来ることはたくさんあります。体の中で、最も筋肉量の多い所は下肢です。下肢を使うことがもっとも大切で、効果的です。高齢の人でも体や関節に負担が少なく、直ぐ出来る方法としては、スクワットやエアロバイク、早足の散歩などがあります。自分に合わせて、段階的に行うとよいでしょう。週3回ほど、少し汗をかく程度の有酸素運動を行うと効果的です。体の筋肉量の維持は、肥満の防止、健全なダイエット、快便につながります。筋肉量の維持を伴わないダイエット食品や薬品によるダイエットは、不健康なダイエットをもたらし、自律神経の機能低下をもたらします。
あなたも明日からできる快便生活。
明日から出来るスケジュールを1例挙げてみましょう。人それぞれ自分にあった方法にアレンジしても良いでしょう。
AM 6:00 起床:コップ一杯の水か牛乳を飲みます。
朝食:時間を十分取って、一口ごとによく噛んでから飲み込みます。
主食、野菜、などバランスを取って食事をします。
食後はかならず歯磨きをします。
便意を感じたら、トイレに行って排便します。便意を我慢してはいけません。ここで我慢すると、便意が消えてしまいます。時間は10分以内が理想的。この便意を大切に育ててください。
朝、家でトイレに行くのが理想的です。時間には余裕をもって。
AM 7:00 家を出ます。出勤、登校。
自宅で便意を感じて排便できない場合でも、会社や学校で、便意を感じたら、我慢せずに直ぐにトイレに行って排便することが大切です。
AM 12:00 昼食: 時間を十分取って、一口ごとによく噛んでから飲み込みます。
食後は必ず歯磨きをわすれないようにします。
このときも、便意があれば、我慢せずにトイレに行って排便します。
PM 3:00 お菓子・果物などの間食の後は必ず歯磨きをしましょう。
PM 7:00 帰宅
時間に余裕があれば、20〜30分ほどの運動が良いでしょう。
PM 8:00 夕食:時間を十分に取って、一口ごとによく噛んでから飲み込みます。
腹八分目くらいが良いでしょう。
食後は歯垢を取る気持ちで少し念入りに歯磨きをします。
夕食が終わってから、翌日の朝食までの時間は、8時間以上あけるのが基本です。
翌日の朝、空腹を感じていることが重要です。空腹は最高の食欲になります。
空腹と食欲は、最高の胃-結腸反射を誘発し、健康な自律神経をもたらします。
PM 11:00 就寝
規則正しい食生活と、週3回以上の適度な運動は、健康な自律神経を育て、快便をもたらします。
快便は、健康に美味しく食事を取り、日々健康な運動のもと十分な筋肉量を維持し、健康な自律神経が維持できてこそ得られるものであり。健康の大きな便り(通知表)です。
快便こそが、唯一得られる、健康ダイエット・健康長寿なのです。
快便の心得は小学生から始まっています。
あすから毎日、大便(大きな便り、通知表)を見て、日頃の生活を見直しましょう。
みなさまの健康長寿、健康ダイエット、快便に少しでもお役に立てれば幸いです。
主に参考にした文献
慢性便秘症 診療ガイドライン 2017年度版
日本消化器病学会関連研究会、慢性便秘の診断と治療・治療研究会、南江堂、2017年10月
便失禁 診療ガイドライン 2017年度版
日本大腸肛門病学会、南江堂、2017年3月
肛門疾患ガイドライン(痔核・痔瘻・裂肛)診療ガイドライン
日本大腸肛門病学会、南江堂、2014年11月
大腸癌治療ガイドライン 2019年版
大腸癌研究会、金原出版株式会社
森田 英利、運動と腸内細菌叢、腸内細菌学雑紙 34:13-18,2020
山田 五月,松本 晴美,高橋 律子ほか
大学生における慢性機能性便秘発現に及ぼす性および生活習慣との関連—横断的研究,栄養学雑誌 Vol. 67 No. 4 157~167(2009)
Ian Lindsey, KAREN NUGENT, TONY DIXON,Pelvic Floor Disorders for the Colorectal Surgeon, Oxford university press, 2011
梅枝 覚(ウメガエ サトル)【非常勤】
昭和53年 三重大学医学部卒業
昭和59年 三重大学医学部大学院卒業
昭和59年 潰瘍性大腸炎の成因、病態に関する研究 にて博士号取得
昭和64年 社会保険中央総合病院 大腸肛門病センターにて 研修
平成4年 社会保険中央総合病院 大腸肛門病センターにて 研修
平成20年4月 三重大学医学部 消化器外科 臨床教授
平成22年4月 四日市社会保険病院 副院長 兼任 大腸肛門病センター長
平成24年4月 日本大腸肛門病学会 理事~平成31年まで
平成26年4月 独立行政法人 地域医療機能推進機構
Japan Community Health care Organization(JCHO)
四日市羽津医療センター 副院長 大腸肛門病センター長
三重大学医学部 臨床教授
日本大腸肛門病学会 理事 財務委員 健康保険検討委員
平成30年4月~ JCHO四日市羽津医療センター
副院長 附属介護老人保健施設長 併任
外科・大腸肛門病IBDセンター
三重大学医学部 臨床教授
日本大腸肛門病学会
評議員 健康保険検討委員
外科(消化器外科、大腸・肛門外科・痔核・痔瘻・裂肛・排便障害に対する内科・外科的治療、大腸癌の治療、潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患の治療、食道・胃・肝・胆・膵等の消化器外科)
所属学会
日本医師会認定産業医: 産業医
日本外科学会 認定医 専門医 指導医
日本消化器外科学会 認定医 専門医 指導医
日本大腸肛門病学会 専門医 指導医 評議員 健康保険検討委員
大腸癌研究会 世話人 施設代表
大腸肛門機能障害研究会 世話人
日本臨床外科学会 評議員
日本臨床肛門病学会:評議員 臨床肛門病技術指導医
日本ストーマ・排泄・リハビリテーション学会 会員 評議員 ストーマ認定士
東海ストーマリハビリテーション研究会 世話人
日本プライマリー・ケア連合学会 認定医 指導医
日本医療メディエーション研究会 会員 メディエーター認定B
日本内視鏡外科学会 会員
日本消化器病学会 会員
日本癌治療学会 会員
日本老年医学会 会員
内痔核治療研究会 世話人
大腸肛門病懇談会:世話人
東海肛門疾患懇談会:代表世話人
近畿肛門疾患懇談会 会員
日本オストミー協会 顧問医
三重県クローン病研究会 世話人
三重IBD研究会 世話人
東海外科学会 評議員
三重外科集談会 会員
2020.06