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IBD(炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎・クローン病)
食事など生活様式の欧米化により本邦でもIBD(炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎・クローン病)の発生頻度が急増しています。IBDは若年者に好発し、治癒することがない慢性疾患の為、治療法が適切でないと患者さんの生活の質(QOL)が著しく損なわれます。当院は、県内唯一の「IBDセンター」を開設しており、患者会や難病相談会を始め多くの啓蒙活動を行っています。これまで、潰瘍性大腸炎約1200人、クローン病約500人の患者さんが当院IBDセンターで治療を受けてこられました。
IBDの治療の進歩は目覚しく、抗TNF-α抗体製剤(レミケード・ヒュミラ)や免疫調整薬(イムラン・プログラフ)は大きな効果をもたらしました。最近、さらにシンポニー・ステラーラという新たな抗体製剤が保険承認されました。また、ゼルヤンツ(ヤヌスキナーゼ阻害薬:細胞内のシグナル伝達を阻害)、エンタイビオ(α4β7インテグリン阻害薬)というこれまでとは作用機序が異なる薬剤が治療選択肢に加わりました。また、炎症を悪化させている白血球を選択的に除去する血球成分除去療法も行うことができます。
当院でもこれらの新薬や新しい治療法を導入することで、治療成績は大きく向上しています。しかし、抗体製剤や免疫調整薬は長期に使用していると治療効果が減弱したり(二次無効)、感染症などの副作用が起こることがあります。したがって、最新の内科的治療を駆使しても治療困難な場合には、適切な時期に手術を行う必要があります。最近、 腹腔鏡技術の導入により術後の傷跡が小さく目立たない痛みが少ない手術が可能になりました。傷跡が目立たないことは、若年者の多いIBDの患者さんにとっては大きなメリットです。満足度の高い手術を行うことで患者さんの手術に対する抵抗も少なくなり、早期の社会復帰が可能になりつつあります。当院では IBDに関する詳細なホームページを掲載しており、多くの患者さんに利用していただいています。是非ご覧ください。
- 三重県下で唯一のIBD専門センターを有し、県内外から多数の患者さんが訪れておられます。これまで、潰瘍性大腸炎約1200人、クローン病約500人の患者さんが当院IBDセンターで治療を受けてこられました。最近は治療困難症例やセカンドオピニオンを求める患者さんが多く紹介されています。
- みえIBD患者会や難病相談会などで、定期的に講演会や料理教室などを開催して患者さんやご家族を対象にIBDの教育や啓蒙活動を行っています。患者間の交流を深める活動も行っています。
- 治療は、医学的根拠と豊富な経験に基づいて行い、従来の基本的な治療法に加えて最新の治療を導入し、常に診療レベルの向上を目指しています。また、各患者の状況に合わせたオーダーメード治療も心がけています。
- 治療原則は、患者のQOL(生活の質)を最重視して速やかに治療を開始し早期に寛解に導き、寛解の期間を可能な限り長くすることです。しかし、必要な際には手術を早期に行い、患者さんの早期の社会復帰を目指しています。
- 薬剤に関しては、各種薬剤の有効性と副作用を充分考慮したうえで治療を進めます。とくに副作用の可能性があるステロイドを漫然と投与しないことをこころがけています。
- 最近では、免疫抑制剤を有効に用いることで、多くの患者さんでステロイド依存状態からの離脱に成功しています。また、抗体製剤は適応症例にはなるべく早期に導入して、有効性を長期間にわたり最大限に引き出せるようにしています。経過中に治療効果が減弱した場合は、期間短縮や投与量増量、他剤へのスイッチなどの対応を行っています。
- 顆粒球除去療法も重症になる前の早期の段階で導入して、ステロイドの投与量を最小限に抑えることに成功しています。また、ステロイド依存症の患者さんに用いることにより、ステロイドの離脱に成功しています。
- 臨床症状の評価とともに内視鏡検査などの画像検査を積極的に診断治療に取り入れ、粘膜病変の評価を治療に取り入れています。とくに内視鏡検査は患者さんの病態に合わせて迅速に専門医が行える体制を整えています。また、癌の早期発見目的の内視鏡検査も定期的に行っています。
- 内視鏡検査は、痛みを伴い時間もかかるため患者さんにとってはなるべく避けたい検査です。当院は、以前から便検査(カルプロテクチン・ラクトフェリン・ヘモグロビン)の研究を行ってきました。これらの検査は便を採取して、便中の炎症性物質の濃度を測定する検査で侵襲を伴わない検査です。また、内視鏡検査の結果と非常に密接に相関しているため、内視鏡検査の代わりになる検査として期待されています。当院では、当日にすぐに結果が出る方法を採用しており、便検査の結果を日常診療に効果的に取り入れています。
- 最近、小腸クローン病の評価目的に、CTエンテログラフィーという検査を行っています。この検査は腸管洗浄液を患者さんに内服していただき腸管を拡張させた後直ちにCTの撮影を行います。小腸のクローン病変を高い精度で鮮明に描出することができます。排便後は大腸内視鏡検査を行っています。このようにCTエンテログラフィーと内視鏡検査を連続して受けることで、小腸と大腸のチェックを一度に行うことができます。
- 外科医が診療にあたっているため、手術は必要時に速やかに行える体制が整っています。手術は、IBDの手術経験が豊富な外科医が行い、原則的に、腹腔鏡を用いて、創が小さく整容性の高い、しかも術後の疼痛が少ない手術を行っており、とくに若年女性の患者さんの満足度が高く非常に喜んでもらっています。出血量が少なく術後合併症の頻度が低いのが当院の手術成績の特徴です。とくに小腸クローン病では狭窄形成術(腸管を拡げるだけで、切除を避ける術式)を可能な限り用いて短腸症候群(小腸が短くなってしまい点滴が必要になる状態)の防止をこころがけています。
- 肛門手術に関しては、非常に豊富な経験を持つ肛門外科医が担当し、可能な限り肛門機能を温存させる保存的な術式(シートン法など)を行っています。肛門病変を長期にわたって有するクローン病患者さんでは、癌を早期発見するために、肛門生検手術を定期的に行っています。
- 多くの新薬や新しい治療法の治験や臨床研究を行っており、海外の施設とも共同で研究を進めています。また、最近では、IOIBDやJSIBDなどの国内外の研究組織の一員としても活動しています。臨床データを国内外の学会で報告し、論文も欧米の医学雑誌に多数掲載されており高い評価を受けています。